講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

276冊目

青い鳥文庫『おーい でてこーい ショートショート傑作選』

作:星新一 選:加藤まさし 絵:秋山匡

田久保遥
Kiss・BE LOVE編集部  22歳 女

わずか9ページのジェットコースター

書籍表紙

青い鳥文庫
『おーい でてこーい ショートショート傑作選』
作:星新一
選:加藤まさし
絵:秋山匡
発行年月日:2001/03/15

 小学生の私の愛読書のひとつに、「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズがあった。今では完結しているこのシリーズも、当時は絶賛刊行中で、最新刊が出るのをまだかまだかと待ちわびていた。そんな折、「なにか、ほかにも面白い本はないか」と、同じ青い鳥文庫から手に取ったのが、この『おーい でてこーい』。
 幼い私は、本文を読み始めてすぐに衝撃を受けることとなる。

 都会近くの村に突如出現した、深い穴。村の若者が、「おーい、でてこーい。」と叫んで石を投げ込んでみたが、なんの反応もないし、反響する音もない。どんなに調べても底の知れない穴を、やがて人類はゴミ捨て場として利用しだす。原子炉のカス、動物や人の死体、都会の汚物、すべての捨てたいものを穴は引き受けてくれた。街はきれいになり、澄んだ空に向けてさらにビルが伸びていく。
 ある日、建設中のビルのうえで、休憩中の作業員が「おーい、でてこーい。」という声を聞く。小さな石ころが彼をかすめて落ちていく……。というのが表題のストーリー。

 どうですか? ぞくぞくしませんか?
 この話、なんと挿絵を含めて9ページで終わってしまう。起承転結の「結」の直前で話が終わるのもあいまって、その後を想像せざるを得ない。「あのとき捨てたものはすべてこの世界に降り注いでしまうのだろうか? そうなったら地獄だ」と、小学生ながら絶望的な気持ちになった。

 星新一のショートショートは名前通り短い話でありながら、どれも印象的だ。
 おうむ返しの会話だけできる美人ロボットが引き起こす殺人を描いた「ボッコちゃん」。スイッチを押すと水を出してくれる代わりに、いつ爆発するかわからない球を与えられた犯罪者の葛藤を描く「処刑」など、スリル満点だ。
 もちろん、こわい話ばかりではない。たとえば「羽衣」は、あの有名な「羽衣伝説」に出てくる天女が、「実は、時間旅行してきた未来の地球人だった」という話だし、「顔の上の軌道」なんかは、つけぼくろが持ち主の女性を本当の幸せに導く話である。  

 星新一ならではの奇想天外な発想から始まって、無駄な設定を省いたシンプルな文章が、力ずくでこちらを納得させてくる。そして、いずれも最後の一文が持つ余韻がすさまじい。

 裏表紙を見ると、「すぐ読めて、ながく楽しめる星新一の世界にどうぞハマってください」と書いてある。その言葉通り、小学生の私はこの『おーい でてこーい』を入り口に、星新一ワールドにすっかりハマってしまった。そのままハマり続けて十年以上が経つのだが、未だに読み返すたび面白く、飽きる気配がない。きっと一生ハマり続けるのだろう。
 そして、縁あって今では「一生ハマれる」作品を出版する会社で働くこととなった。この先に星新一さながらのどんでん返しが待っていないことを祈りながら、面白い本を世に送り出していきたい。

(2016.07.15)

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