講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

269冊目

モーニングKC『プラネテス(2)』

幸村誠 

平塚敏
週刊少年マガジン編集部 23歳 男

わがままで、無様な君へ

書籍表紙

モーニングKC
『プラネテス(2)』
著者:幸村誠
発行年月日:2001/10/20

「ヘラヘラしてるトコが嫌」

 誰かがそう言いました。奇遇です。僕もヘラヘラしてるヤツは嫌いです。

「自分勝手なやっちゃなぁ」

 そんな声もありました。分かります。僕もそう思います。

 分かってる。分かってはいるんだ──と、思い続けて生きてきました。布団を出るのが辛くて授業をサボり、誰とも会わない学生生活。飯はコンビニ。趣味はスマホを撫でること。高校を出てからの数年間、ダメな自分への苛立ちだけが鮮やかな日々でした。

 ただ、そんな生活にも一つだけ誇れることがあります。それは「夢を持てたこと」です。いつからか「きっと何者かになってやろう」と、心の底から思えるようになりました。振り返れば、僕にそのきっかけをくれたのが、本書『プラネテス』だったのだと思います。

 大学二年次、探検部の狭い部室の片隅に、手垢まみれの古い漫画を見つけました。背表紙には『プラネテス(2)』とだけ。初めて見る作品でしたが、表紙の絵が妙に気になり、つい手に取ってしまったことを覚えています。これが出会いです。SFなのに、どこか身近に思える舞台。透明感のあるエピソード。そして何より、生々しく怒り、苦しみ、生きるキャラクター達に、僕は一瞬で引き込まれました。

 主人公のハチマキは、宇宙のゴミ(デブリ)を拾う仕事をしているサラリーマン。宇宙に憧れ、宇宙に居場所を見出した若者です。しかし、毎日デブリを拾い続けるだけの日々を過ごすうち、彼は一介の会社員には過ぎた夢を抱きます。それは「自分の船で宇宙を駆ける」こと。本書の二巻は、夢と現実の狭間であがく、無様なハチマキの物語でした。

 ──生きてるだけならゾウリムシにだってできらァ
 ──テキトーに食って寝てクソしてビール食らって……
 ──…………クソッタレ!!

 ときに他人の善意に苛立ち、自分の殻に引きこもる。いつも強気の言葉を並べているのに、内心不安でたまらない。ハチは当時の僕から見ても、歪で不完全な人間です。けれど、そんな彼だからこそ、夢に向かって足掻く姿は何よりカッコよく見えた。試験の前日、眠れず、歯ぎしりをし続ける弱さも。友人の優しい言葉に縋りかけ、一人愚痴を吐き散らかす醜さも。全てひっくるめて、どうしようもないくらいにカッコよく見えたんです。

 ──わがままになるのが怖い奴に 宇宙は拓けねェさ

 無様に足掻いて、自分勝手に生きる人間は素晴らしい。『プラネテス』から、僕はそんなことを教わりました。ひねくれ者でも、小心者でも関係ない。必死に夢を見ている人って、ただそれだけでカッコいいのです。だから、僕もそうなりたいと思った。僕の不安や下らない苛立ちも、ハチのように力に変えられるのかもしれない。夢さえあれば、ダメ人間なりにカッコよく生きられるんじゃないか……そう、思ったんです。

 いい物語は僕らを引き込み、感化し、その先を示してくれます。どう生きるか、どうなりたいのか、大学生の僕は『プラネテス』を通して知りました。これまで数え切れない「いい物語」と出会ってきましたが、敢えて一つ選ぶとすれば、「この一冊」を勧めます。

(2016.06.01)

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