講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

267冊目

イブニングKC『レッド』(1)~(8)

著者:山本直樹 

佐々木美佳
デジタルプロモーション部 36歳 女

昭和事件史好きの『レッド』と連合赤軍本・読みかたガイド

書籍表紙

イブニングKC
『レッド』(1)~(8)
著者:山本直樹
発行年月日:2007/09/21~2014/02/21

趣味と言うには語弊がありますが、連合赤軍関連本についての書籍を集めています。1960年代終わりの武装闘争から山岳ベースでのリンチ、1972年のあさま山荘での終結に至るまでのいわゆる「連合赤軍事件」、血と暴力の匂いに満ちたこの衝撃的な事件に惹かれる人は多いと思います。かつて下北沢に「赤いドリル」という古書店が2年間ほどだけ存在しました。店主の夢が「連合赤軍事件本でいつか目録をつくる」という、風変わりな左翼本専門の古書店でした。赤軍派による大菩薩峠での軍事訓練が行われた頃のパンフレットなど貴重な資料を見せてもらい、あらかた連赤モノを読み尽くすと派生的に東アジア反日武装戦線関連本などを紹介してもらったものです。

いかに衝撃的な事件とは言え、既に語り尽くされた物語でもあり新しい本などなかなか出ませんし、「昭和の事件史」的なテレビ番組の特集で題材になる程度。そんな中で今もって連載中という貴重な作品が山本直樹の『レッド』です。
まず、この1冊と言っておきながらなんですが連合赤軍モノを初めて読む、もしくは永田洋子くらいしか登場人物がわからないという方にはいきなり『レッド』から読むことはお勧めしません。坂口弘『あさま山荘1972』『続あさま山荘1972(上・下)』を一読して主要登場人物と一連の流れを把握するのがいいと思いますが、時間がない人は若松孝二監督の映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち) 』を観るだけでもいいと思います。でなきゃ絶対『レッド』では混乱します! なぜかというと、登場人物の名前が赤城=永田洋子、北=森恒夫、谷川=坂口弘、という風に山岳の名前をもじって付けられているからです。山本直樹先生の描きわけが難解なのと相まって人物相関を照らし合わせるのも一苦労です。

『レッド』は連合赤軍事件のハイライトである山岳ベースリンチ事件(1971〜1972年)の前、羽田闘争のあたりから始まり、ゆっくりとしたペースで物語が進んでいきます。山岳ベースの修羅場を生き延びた植垣康博氏がおそらくモデルの岩木も、非合法活動の最中に女の子とあはんうふんしてますし、鬼ババと呼ばれる赤城(=永田)もパートナーである谷川(=坂口)にちょっとダメだしされただけで涙ぐむようなまだまだ豆腐メンタルな女のコで、日常の中にほんのちょっとゲリラやら武装闘争が紛れ込んでるような日々が続きます。あまりのスローペースに完結するのかとすら思っていましたが、現在『レッド最後の60日そしてあさま山荘へ』と変わり、ようやく壮絶な総括要求が描かれるようになりました。

今まで描かれてきた日常から地続きで狂気と地獄の日々が始まります。『レッド』では登場人物の頭に死ぬ順に奇妙な数字がふられています。物語の初期から浮かぶこの数字がようやく意味を持ち始めるのです。生々しい血と死への恐怖がもたらす排泄物に目を背けたくなりますが、山本直樹の表現はひたすら淡々としているのです。そこに思い入れのある人物など一切いないかのように。

連合赤軍関連本は普通よりかなり読んでいるつもりではありますが、この本によって新たに「補完」された部分は少なくありません。単なるイメージが拡張されたというだけではありません。徐々に場の空気が変化し、身重の同志すら仲間殺しの対象となっていくことが、日常からの地続きであったことが改めて恐ろしく感じられました。この空気感は他の本では味わえなかった。さすが山本直樹。

ちなみに私自身は思想も主張も何もない、拘りのない人間です。連合赤軍についての本をいくら読もうとも出てくる感想はいつも同じです。「バカだな〜」だけです。同じ新左翼系の活動家、例えば東アジア反日武装戦線(松下竜一の『狼煙を見よ』がオススメです)のL組メンバーの友情なんかに比べると、ただただ自分勝手で身勝手な内ゲバに呆れるしかありません。
それでもこの物語を読んでしまう理由はどこか本気でバカにできないところなんだと思っています。日常は連続ではない、断続的なものであると山本直樹はかつてインタビューで語っていましたが、断続的な日常の延長線上に仄暗い闇の切れ目が待ち受けているのだとしたらと思うと急に焦りすら感じます。

結末は既に知っている物語です。私の義兄は関ヶ原の合戦が好きでドラマで見るときはいつも「100回に1回くらいは西軍が勝つかもしれないじゃん!」という気持ちで見ているそうでアホだなぁと思ってましたが、私の『レッド』に対する気持ちもそれに近いかもしれません。凄惨な暴力表現に目を背けたくなりながらも、心のどこかでアナザーストーリーを期待しながら多分最後まで読み続けていくことでしょう。

(2016.01.15)

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