講談社100周年記念企画 この1冊!:『風切る翼』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

195冊目

『風切る翼』

作:木村裕一 絵:黒田征太郎

野口満之
校閲第四部 58歳 男

死んではいけない、死なせてはならない。

書籍表紙

『風切る翼』
作:木村裕一
絵:黒田征太郎
発行年月日:2002/09/11

「本を創る時間を、読者に見てもらったらどうだろう?」
この本は、そのような思いつきから、3日間の公開制作という形で編集した本だ。

 私たちは、「本」という形で作品を読者に届けている。イラストレーターやカメラマン、デザイナーの手も借りて、作品を一人でも多くの読者の心に届く「本」に仕上げるのが編集者のなりわいである。読者にとってはドラマは、「本」を手にとってからしか始まらないわけだ。

 しかし、創作の現場には、印刷されなかった数多くのドラマがある。それを独り占めできるというのが「編集者」という仕事の醍醐味でもあるが、ときには、読者に見てもらうのもいいのではないか、作家・画家・デザイナー・編集者に、観客として読者が加わった創作現場は、どのようなものになるか見てみたい、と思ったのだ。

 この本自身が、2001年9月11日に起こったいわゆる「同時多発テロ」からの「再生」を願うというメッセージ性を持っていたことも、無関係ではない。スタッフ全員が、いまだにこのような愚かな行為を行う21世紀の人類の同時代者として、「自分はこの時代を何者として生きるのか」を、「本」をつくることで見つめ直したいと思っていた。

 ともかく、東京・六本木のギャラリーを「アトリエ」として借りて、作品ができあがる保証もなく、3日間の「合宿」は始まった。当時はネットメディアが進んでいなかったので、フライヤーを配って告知するぐらいしかできなかったが、今なら、ネットテレビやツイッターで実況中継をしながら行っただろう。

 3日めの夜、「絵本」はできあっがった。

 内容は結果的に、いじめに苦しむ人や、いじめから人を救うことを願う人に、ぜひ読んでほしいものになった。 「再生」の第一歩は「寄り添う」ことである。
 帯に記したが、「あなたを失いたくないと、思うだれかがきっといる」。
 死んではいけないし、死なせてはならない。切に思う。

(2013.04.15)

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