288冊目
『類語大辞典』
2002年、秋。小学生だった私の最大の悩みは、「作文で『〜と思いました』という表現を繰り返してしまうこと」。
当時の私にとっては、それはそれは真剣な悩みだった。そこで、本を読んでは様々な言い回しをノートに書き溜めるという、涙ぐましい努力を続けていた。
『類語大辞典』に出会ったのは、そんな時だった。
発売になったばかりの本書を、書店で偶然見つけた。ページを開いて視界に飛び込んできた光景に、思わず息を呑んだ。
「私が欲しかったのは、これ!」
それまで辞書と言えば国語辞典しか知らなかった私にとって、類語辞典との出会いは衝撃だった。
「驚く」という言葉を引くだけで、「舌を巻く」「驚嘆する」「仰天する」「肝を冷やす」「寿命が縮む」「腰を抜かす」「意表を突かれる」「打っ魂消る」「目を白黒させる」「鳩が豆鉄砲を食った様」といった表現に加え、「あっ」「えっ」「おっ」「あれ」「あら」「ありゃ」「おや」「まあ」の違いまで知ることができるのだ。
幼い私にとって本書は、一振りで次々に財宝がこぼれ出る「打ち出の小槌」のような存在に思えた。親にせがみ続け、クリスマスプレゼントにようやく買ってもらうことができた。
本書の最大の特長は、「大」辞典を謳う豊富な語彙数と、画期的な分類方法だ。
まず、「生きる・死ぬ」「生む・育てる」から始まる100のカテゴリーがあり、その下にいくつかの小分類が並ぶ。たとえば、「生きる・死ぬ」のカテゴリーの下には、順に「生きる」「助かる」「生かす」「暮らす」「助ける」「死ぬ」「枯れる」「殺す」「枯らす」という小分類がある。そして、それぞれの小分類の下に、品詞別に言葉が並ぶ。
そのため、国語辞典が語を50音順に並べ、前後の語が関連を持たないのに対し、本書は前後に配された語が意味の繋がりを持っている。さらに本書は、「形が異なる別の語は意味も異なるはずだ」という信念に基づき、 国語辞典によく見られる語釈での言い換えを排し、語の微妙な差異を説明することに努めている。
ゆえに、一度本書を開いたならば、ゆるやかな言葉の連なりに誘われ、つい何枚もページをめくってしまうはずだ。そこには豊かな言葉の世界が広がっており、それまで知らなかった言葉との新しい出会いはもちろんのこと、既知の言葉が持つ奥深さに気づかされるような、幸せな再会が待ってもいる。
辞書には、一語を探すために「引く」だけではなく、語をたどって「読む」という喜びもある。ぜひ本書を道標に、言葉の世界を散策してみてほしい。
(201707.03)