講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

288冊目

『類語大辞典』

著・編:柴田武/山田進 

竹内美緒
校閲第一部 20代 女

辞書を読む喜び

書籍表紙

『類語大辞典』
著・編:柴田武/山田進
発行年月日:2002/11/19

2002年、秋。小学生だった私の最大の悩みは、「作文で『〜と思いました』という表現を繰り返してしまうこと」。

当時の私にとっては、それはそれは真剣な悩みだった。そこで、本を読んでは様々な言い回しをノートに書き溜めるという、涙ぐましい努力を続けていた。

『類語大辞典』に出会ったのは、そんな時だった。

発売になったばかりの本書を、書店で偶然見つけた。ページを開いて視界に飛び込んできた光景に、思わず息を呑んだ。

「私が欲しかったのは、これ!」

それまで辞書と言えば国語辞典しか知らなかった私にとって、類語辞典との出会いは衝撃だった。

「驚く」という言葉を引くだけで、「舌を巻く」「驚嘆する」「仰天する」「肝を冷やす」「寿命が縮む」「腰を抜かす」「意表を突かれる」「打っ魂消る」「目を白黒させる」「鳩が豆鉄砲を食った様」といった表現に加え、「あっ」「えっ」「おっ」「あれ」「あら」「ありゃ」「おや」「まあ」の違いまで知ることができるのだ。

幼い私にとって本書は、一振りで次々に財宝がこぼれ出る「打ち出の小槌」のような存在に思えた。親にせがみ続け、クリスマスプレゼントにようやく買ってもらうことができた。

本書の最大の特長は、「大」辞典を謳う豊富な語彙数と、画期的な分類方法だ。

まず、「生きる・死ぬ」「生む・育てる」から始まる100のカテゴリーがあり、その下にいくつかの小分類が並ぶ。たとえば、「生きる・死ぬ」のカテゴリーの下には、順に「生きる」「助かる」「生かす」「暮らす」「助ける」「死ぬ」「枯れる」「殺す」「枯らす」という小分類がある。そして、それぞれの小分類の下に、品詞別に言葉が並ぶ。

そのため、国語辞典が語を50音順に並べ、前後の語が関連を持たないのに対し、本書は前後に配された語が意味の繋がりを持っている。さらに本書は、「形が異なる別の語は意味も異なるはずだ」という信念に基づき、 国語辞典によく見られる語釈での言い換えを排し、語の微妙な差異を説明することに努めている。

ゆえに、一度本書を開いたならば、ゆるやかな言葉の連なりに誘われ、つい何枚もページをめくってしまうはずだ。そこには豊かな言葉の世界が広がっており、それまで知らなかった言葉との新しい出会いはもちろんのこと、既知の言葉が持つ奥深さに気づかされるような、幸せな再会が待ってもいる。

辞書には、一語を探すために「引く」だけではなく、語をたどって「読む」という喜びもある。ぜひ本書を道標に、言葉の世界を散策してみてほしい。

(201707.03)

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