講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

282冊目

少年マガジンKC『School Rumble』(1)~(22)

小林尽 

岩村貫吾
週刊少年マガジン編集部 20代 男

僕の青春

書籍表紙

少年マガジンKC
『School Rumble』(1)~(22)
著者:小林尽
発行年月日:2003/05/14~2008/09/17

「ラブコメが好き」

思春期の頃、ラブコメは少年たちの心を虜にした。その甘酸っぱい青春に誰もが焦がれた。しかし、誰も口には出さなかった。いや、出せなかった。少年たちの間には、ラブコメの話題を出してはいけないという不文律があったのだ。いちごパンツに夢中だった彼も、「リアルなんてクソゲーだ」と嘯いていたアイツも、そしてピアノを習っていたためおこがましくも俺様指揮者と自分を重ね合わせてしまった僕も、いつの間にか交わされた暗黙のルールに従って閉口していた。小学校の高学年から高校卒業までの実に8年間。僕たちはその想いをひた隠した。それは気恥ずかしさに由来しているのだと思う。我こそが主人公なり、という大それた欲望が悟られてしまうことに対する。

だが、現実はそんなに甘くない。自分が主人公ではないということに、認めなくとも気づいてしまう。許嫁の幼馴染もいなければ、甲子園に連れていくと約束を交わす相手もなく(そもそも野球部ではなかった)、謎の美少女転校生とヨダレを通じて絆が結ばれることもなければ、楽園(ハーレム)計画が始動することなんてもっての外。浪人はしたものの、女子寮の管理人になるツテなどあるはずもなく、シコシコ勉強する日々。あった事といえば、バレンタインデーに「あなたとヨガが好き」なる怪文書と安物のチョコが綺麗に包装されて机の中に仕込まれているという友人が仕掛けた趣味の悪いドッキリと、なぜだか少女漫画の主人公バリにモテる兄とことあるごとに比較され「どうしてお前は……」と友人知人にこけおろされた事くらいである。あまりにもむごい。そんな僕が、加速度的にラブコメに傾倒していったのは詮の無いことだったのではないだろうか。

そして、もう後がないという現実から逃れようとした浪人生の冬に運命の出会いが訪れる。そう、『スクールランブル』との出会いである。同級生に片想いする平凡な女子高生・塚本天満とその天満に片想いをする不良男子高校生・播磨拳児、その2人を中心に様々なキャラクターが悪戦苦闘しながらも恋と高校生活を謳歌するラブコメ作品だ。物語の中で躍動する彼らはとてもまぶしい。矢文でラブレターを出し、漫画に想いを乗せ、マグロ漁船で自分を見つめなおす。そんな「好き」という気持ちに全力で向き合う彼らの姿は、不器用で不格好だけど、だからこそ美しくて人を魅了する力を秘めている。頑張りすぎて空回りしてしまっても、失敗して落ち込んだとしても、いつだって前を向いて真剣に生きている。

<……たしかに周囲の流れってのはあります。正直、つれーっス。だけど、考えたってしょーがねぇコトは考えません。全部受け入れて……それでも俺は笑ってやりますよ>(『スクールランブル』より)

逆境を受け入れ、笑顔で乗り越えていく生き様に、心が震えた。格好良さに憧れた。そして僕もこうありたいと思った。全力で、自由で、自分の気持ちに忠実な、彼らのように。

<好き なんてフシギな言葉>
<言葉にした瞬間 世界が変わる魔法の言葉>(同作より)

『スクールランブル』が好き。ラブコメが好き。ラブコメ好きを公言できない、モテたいけど悟られたくないという様々な欲求が渦巻く思春期の殻を破って、素直な気持ちをつぶやいてみた。そうしたら「実はオレも…」と友人たちがオズオズと乗り出してきた。今まで話せなかった分を取り戻すかのごとくラブコメトークで盛り上がっているうちに、こんな物語を作る仕事に携わりたいという夢ができた。主人公ではなかったかもしれないけれど、こんな人生もアリかなと受け入れることができた。彼らを真似て「好き」を言葉にした瞬間、本当に世界が変わった。

<きっと言うから あなたのおかげで幸せだったって>(同作より)

僕は『スクールランブル』に出合えて幸せだった。どんな時でも、ガハハと笑い飛ばして明るく前を向くことができる。「この1冊」に出会えて、僕の青春は救われたのだ。そんな幸せを、おすそわけしたい。

(2017.06.11)

講談社の本はこちら

講談社BOOK倶楽部 野間清治と創業物語