講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

268冊目

月刊少年マガジンKC『あしたのジョーに憧れて』(1)~(2)

川三番地 

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川端里恵
mi-mollet編集部 36歳 女

人生をかけたドラマを描く裏にあるドラマに憧れて

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書籍表紙

月刊少年マガジンKC
『あしたのジョーに憧れて』(1)~(2)(以下続刊)
著者:川三番地
発行年月日:2015/06/17~2015/12/17(刊行中)

“あしたのジョーに憧れて”講談社に入社したひとりです。子どものころに母親の実家で読んですっかりジョーに心酔し、グッズや資料を買い集め……めでたくジョーの出版社に就職することになった私。内定者の顔合わせの会で、講談社の社屋の6階講堂に足を踏み入れたときの感動たるや! 「わー、力石徹の葬儀をやった場所!」講談社に入った目的を早々に達成してしまい、もう会社を辞めてもいいとさえ思いました。

このとき会社を辞めなくてよかった、と思う出来事がこの1年後に起こります。新入社員で広告営業に配属になった私は、マンガキャラクターを使ったタイアップの提案を迫れられていました。矢吹丈しかいない!(公私混同も甚だしい思い入れ)社内先輩方の伝手を使って、畏れ多くもちばてつや先生に電話で直接交渉する、というところまで辿りつきました。ちば先生の生声! 今、思い出しただけでも手が震えます。

舞い上がりすぎて記憶が曖昧なのですが、ちば先生は「どのころのジョーが好きですか」とお尋ねになり、私は「喧嘩っぱやくて言うことをきかない若いころのジョーが好きです」と答えました。先生は「残念ながら自分はずいぶんと歳をとってしまったので、もう若々しい頃のジョーは描けないんだ」というようなことをおっしゃいました。断る理由をファンに優しく表現してくれただけかもしれない。でも、ちばてつや先生とジョーの話を直接できた、ということだけで“あたしゃ人生大満足”で、もうこの会社を辞めてもいい、と二度目に思ったのでした。

さて、今回ご紹介したいのは川三番地さんの漫画『あしたのジョーに憧れて』です。(ようやく本題)元ちばプロの川三番地先生が、アシスタント時代の実体験を描き下ろした自伝的な漫画です。1巻は、ちばプロの遠景の技法の解説から始まります。漫画家さんが描く視点がどこにあるか、まったく意識したことがなかったのですが、『あしたのジョーに憧れて』を読んでから『あしたのジョー』を読むと、たしかに、ドヤ街のシーンなどかなり上空の視点から描かれていることに感動します。

──というように『〜に憧れて』を読む→『〜ジョー』を確認→『〜に憧れて』を読む→『〜ジョー』を確認……とエンドレスわんこそば。徹夜必須!

私は漫画の部署を経験していないので、今の制作過程はどのくらいデジタル化が進んでいて、昔の手法と違うのか、詳しいことはわかりません。ジョーの時代は、背景の線一本、一本、血しぶきのひとつひとつがアシスタントさんたちの手描きであったこと、その上手い下手の差を知ってから読むとまた感動もひとしおです。

2巻の中盤、ちば先生に自分の描いた漫画を読んでもらえる機会を得た田中少年(川三番地先生)。その評価はネタバレせずにおきますが、ちば先生の「これ楽しそうだ!! そう思ったときに絶対描くの!!」というセリフに号泣。1巻に収録されているちば先生のインタビューにある「『漫画を描きたい』と思ったらもうすでにそこに才能があるんです」という言葉がここでボディブローのように効いてきて、膝から崩れ落ちるのです。

あしたのジョーに憧れて講談社に入った女子は、営業から女性誌編集部を転々として今、WEBマガジン「mi-mollet」の部署にいます。なんだか場違いのところにずっといる気がしているのですが、「これ楽しそうだ!!」と思えている限りは「才能がそこにある」と信じて私も頑張ろうと思えました。田中少年の今後が楽しみなのでまだ辞めません!

(2016.02.15)

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