263冊目
『DIVE!!』(1)〜(4)
2歳から大学進学で上京するまでの約16年間、クラシックバレエを習っていました。そんなに幼いころから、と驚かれることもありますが、バレエの真の魅力に気付き、本気でのめりこんだのは中学生くらいからかもしれません。
初めて出場したコンクールで、他の人の演技に圧倒されたことがきっかけでした。優雅で、まるで身体から音楽が流れているみたい。見ているこちらも楽しくなるような目の輝き。なんて美しいんだろう……。学校の部活にも入らず、「レッスンがあるから」と友達との遊びも断っているのに、心のどこかで夢中になりきれず、中途半端に踊っている自分。予選落ちという結果以上に、鈍くて曖昧な自分の踊りが嫌でたまらなくなりました。
翌日から食事をギリギリまで制限し、減量を開始しました。(本当につらかったです……)徐々に無駄なものを削ぎ落としながら、正しい立ち方から学び直しました。トゥシューズは爪先の力で立つのではなく、腹筋で身体全体を引き上げて立つから軽やかな動きになると知り、筋トレが日課になりました。踊れば踊るほど心も体も研ぎ澄まされて、気付けば無我夢中で毎日レッスンに通っていました。
そんなとき、中学校の図書館で出会ったのが、「DIVE!!」でした。以前から好きだった森絵都さんの作品だ、と飛びつき、あっという間に三人のダイバーに惚れ込みました。
心から楽しんで飛ぶ、坂井知季。津軽の海のように壮大に跳ぶ、沖津飛沫。元ダイバーの両親のもとに生まれたサラブレッド、富士谷要一。芸術とスポーツという違いはありますが、飛び込みという競技が、地道な訓練の上に華やかな技が花開くバレエと似ている感じがして、一気に読み進めたことを覚えています。
主人公たちは、葛藤しながらも自分にしかできない飛び込みを探して奮闘します。何かに必死に取り組むことは、いいことばかりじゃありません。友達や恋人を失うこともあるかもしれません。できない自分に落ち込むこともしょっちゅうです。でも、夢中になって初めて見える世界の景色があります。そんなメッセージに共感して、心に残る作品になりました。
それから10年が経ち、縁あって、大好きな本書が生まれた会社で働くこととなりました。今思い返してみれば、登場人物たちのように才能に満ち溢れていたわけでもなく、もちろんバレエダンサーになれたわけでもありません。でも、バレエと真剣に向かい合い、「DIVE!!」の登場人物たちに共感したあのときの力は、今も確実に私のなかで生きていると思います。よし、と気合いを入れると必ず姿勢がピンと伸びる自分に気付くとき、それを確信するのです。
(2015.08.15)