講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

259冊目

モーニングKC『みかこさん』(1)~(7)

著者:今日マチ子

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久保田千尋
第一事業販売部 24歳 男

適切な読み方の難しい本

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書籍表紙

モーニングKC
『みかこさん』(1)~(7)
著者:今日マチ子
発行年月日:2009/10/23~2014/01/23

 書店にあるオリジナルのポップが好きだ。自分の感性では絶対に選ばないような本たちが、「オレ、おもしろいぜ!」って顔をして並んでいて、発見が多いところが気に入っている。そういうドヤ顔させられている本に出会いたくて、休日は書店に行くことが多い。

 2年ほど前、書店巡りをしているなかで、今日マチ子さんのコーナーに出くわしたことがある。そのときは、ポップに惹かれて試し読み冊子を読んだものの、話の意味が全然わからなくて、何も買わずに帰ってしまった。だというのに、パラパラとめくったときに見たキャラクターの無表情が、帰ったあともずっと頭にこびりついていた。

 それから魚の小骨がのどに刺さったような感じであれはなんだったのだろうかと悶々と日々を過ごしていた。2週間くらいで悩むことにも飽き、バイト代が入ったのを理由にして購入したのがこの『みかこさん』だった。

 試し読み冊子のリベンジとばかりに、自分のなかのモヤモヤに決着がつくまで、とことん向き合う覚悟を決める。コーヒーをいれて、いただきもののお菓子を出して、本格的に腰を据え、普段の倍以上の時間をかけて、ページをめくっていく。そうしたら、それまで気付いていなかった繊細なキャラクターの感情表現に、めちゃくちゃ揺さぶられた。自分が高校生のときの焦りとも、不安ともつかないような益体もない感情を揺すり出される感じがした。

 驚きの感情を表現するとき、よくあるマンガならキャラクターは驚いたポーズをとり、効果線が引かれ、ページ全体で驚いたことが表現されると思う。それが、『みかこさん』ではかすかに眉の角度を違え、目の形を変えることで驚きが表現されていた。しかも、同じ驚きの感情でも、場面によってその驚きの性質が微妙に違うのだ。尊敬の念が入った驚き。動揺の混じった驚き。後悔が透けてみえる驚き。矛盾した表現だが、表情豊かな無表情なのである。とても繊細で多彩な表現だから、試し読み冊子を流し読みしたときには気づけなかったのだろう。

 そうやって『みかこさん』がゆっくり読むべき本であると気付いたことをきっかけに、本にはいろいろな読み方があるのだと思うようになった。お酒を読みながら、ぼーっと読むのがいい本。電車で、とぎれとぎれに読むのがいい本。集中して一気読みした方がいい本。『みかこさん』によって、読書の幅が少し変わった意味で広がったように思う。

(2015.07.15)

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