講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

257冊目

少年マガジンKC『復刻版 天才バカボン(1)』

赤塚不二夫

牧村太郎
第三・第四事業販売部 30代 男

笑えるけど怖い、ゾッとするけど笑えちゃう

書籍表紙

少年マガジンKC
『復刻版 天才バカボン(1)』
著者:赤塚不二夫
発行年月日:1999/10/13

 一番最初に目の当りにしたのは、アニメだったと思います。再放送でもよくやっていたので、歴史のあるものなんだろうなと思っていました。「ルパン三世」あたりと同じポジションといいますか。その時に、あの突き抜けた、天才でバカでバカの天才のパパの言動に説得力と格好よさを感じました。

 それが漫画が原作だと知ったのは、小学校の高学年の頃。近所の古本屋で買った単行本だったと思います。それは曙出版のB6版で、他にも当時『おそ松くん』(サンコミック新書版)をよく読んでいたので、B6のコマの大きさにわくわくしたことを覚えています。正直、自分の世代から考えても随分と前の作品ですが、私にとっては斬新に映りまして、その時ハマっていた『JOJO』と同じくらい、もしくはもっと好きだったと思います。当然、どう始まってどう終わったんだろうか、という疑問も湧きおこりまして。すでに原作は絶版になっていたので、いよいよ“まとめて読みたいのだ!”というフラストレーションが高まってきまして、そんな時に文庫版『天才バカボン』が双葉社より発売したんですね。そして、その本の巻末の出典で、「バカボン」が講談社で連載をスタートし、“イガラシ記者”が実際にいたことも知りました。講談社から新書版の復刻が出たのは、そんな流れの中でだったと思います。

「バカボン」というと、ウナギイヌ、警察官、レレレのおじさんなど、とにかくキャラが豊富ですが、その中で、個人的にツボだったキャラは、“龍之進”という少年。その彼の印象に残っている話があります。一度疑問を持つと“なんでですか”と言い続ける子なのですが、そのしつこさにうんざりした両親が、彼を黙らせるためにジグソーパズルを買い与えます。喜ぶ彼は、さっそくワンピース目を手に取るのですが、それを持ったまま、考え込んで、黙りこくってしまいます。戦争が始まり、母親が危篤になり……時代は目まぐるしく流れますが、それでも彼は一点を見つめ続ける。母親の葬式にも出ずに、ワンピースを見つめる龍之進についに父親は観念して、なんとかジグソーパズルを完成してくれ、と言い残して死んでしまいます。晩年を迎えた彼は、やっとそのピースがジグソーパズルのどの部分かを突き止めるんですが、その喜びを父母に伝えようとしたときには、すでに彼らはいない。そして最後に、「なんでですかー!?」。もう、読むとぞっとする何かがある。ギャグなのに怖い、怖いのにギャグと言いますか。

 先日、電車に乗っていたら、まわりの乗客がスマホ片手に没頭している中、小学校2〜3年ぐらいの少年がお母さんの隣で文庫版のコミックスを熱中して読んでいました。なんかなじみのある絵柄だなと思ったら、「バカボン」でした。少年期の教科書としてはぴったりです。もちろん、この年で読んでもまた違う味わいがあります。そんな永久不滅のドラマが「バカボン」には詰まっていると思います。

(2015.07.01)

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