253冊目
週刊マガジンKC『あひるの空』
僕はマジメでした。中学でバスケ部に入り、毎日毎日、必死に練習しました。部活を休んだことは一度もありませんでした。先輩たちの試合は、体育館にいる誰よりも声をだして応援しました。庭にバスケットゴールをおいて、夜おそくまでシュートを打ちました。バスケがうまくなりたかったから、僕はマジメでした。
しかし、もともと運動神経がいいほうではなかった僕は、どんなに努力を重ねても“そこそこ”にしかなれませんでした。小学生からバスケをやっている彼。身長が僕より20センチも高い彼。こんなにもマジメにバスケと向きあっているのに、どうして彼らに敵わないんだ……。
先輩たちが引退し、僕はキャプテンになりました。実力は“そこそこ”だったけど、マジメさが評価され、キャプテンに指名されたのです。僕よりもっと実力のあるチームメイトがいたのに。キャプテンだから、練習を一度も休みませんでした。キャプテンだから、誰よりも大きな声を出しました。キャプテンだから、自主練をしなきゃいけないような気がしました。どうして“そこそこ”な自分がキャプテンなんだ。そんな葛藤におしつぶされ、いつしか僕は、バスケがうまくなることを夢見たあのワクワクを忘れてしまいました。バスケがうまくなることよりも、“キャプテンでいること”に、マジメになりました。毎日毎日、バスケも、そしてマジメな自分も、嫌いになりました。
そんなバスケから逃げだしたくなる日々のなかで出会ったのが『あひるの空』です。身長にめぐまれず、バスケでは決して有利とはいえない体格の主人公・空は、誰よりもドロくさく、マジメに、練習を積み重ねます。そして試合に出れば、相手をするするとかわし、目の覚めるようなロングシュートを決めてこう言うのです。「これが――僕の翼です」
空みたいにシュートを決められたらどんなに気持ちいいのだろう。コートのなかで自由に飛びまわる空を見ていると、不思議なもので、自分までバスケがうまくなったような気持ちになるのです。どんなにマジメにやっても“そこそこ”にしかなれない自分への苛立ちなんてすっかり忘れて、「もっとうまくなりたい」という想いが湧きあがり、それは明日の練習へと向かわせてくれる強い強いエネルギーとなりました。
今あらためて『あひるの空』を読みかえしています。空のプレーはかわらず僕の心を惹きつけますが、時を経て考えると、あのころの僕は魅力的なプレーよりも、空のマジメな姿に勇気をもらっていたのかもしれません。当時貫きとおしたマジメさは、今もかわらず僕の体に染みついています。ひたむきに、マジメにやれば、いつか絶対飛べるはず。マジメにやるのも、いいものです。
(2015.06.01)