講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

246冊目

『ねえ、マリモ』

文:やまだけいた 絵:さかざきちはる

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岡本京子
デジタルプロモーション部 50代 女

10年の時を経て、わんこが引きあわせてくれた絵本

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書籍表紙

『ねえ、マリモ』
文:やまだけいた 
絵:さかざきちはる
発行年月日:2005/03/14

 我が家のたからものだった、チワワ♀、9歳。
2014年6月、その小さな命の灯が消えてしまった。

 お散歩が大好きだった。けれど、私の怠慢で雨の日や寒い日はサボってしまった。何日も連れて行ってもらえなくても文句も言わず(言えない)、ひとたび散歩に行くとわかるとしっぽをブンブン振ってまとわりついてきた。
 ごはんを一気にバクバク食べていた。帰宅が遅くなって、ごはんを夜中にあげることも珍しくなかった。どんなに待たされても文句も言わず(言えない)、ごはんだとわかると大き目をキラキラさせて近寄ってきた。

 毎日のありふれた光景だったけれど、決して当たり前のことじゃなかったと気づいたのは、いなくなってから。必ず別れがやってくるのはわかっていた。わかっていたけれど、その現実を受け入れるのには時間が必要だった。心が押し潰されそうだった──。

 それでも毎日会社には行くし、いつもどおり仕事をしていた。そんなある日、絵本の編集部に用事があって電話したところ、たまたまとってくださったのはよく知っている編集者だった。彼女の声を聞くなり、考えるより先に声に出して聞いていた。
「○○さんが以前作った絵本『ねえ、マリモ』って、もう絶版かな?」

『ねえ、マリモ』は、ある少女が、子どものころからいっしょに育った愛犬を失い、その悲しみをこえて犬と暮らすことの素晴らしさを再確認するまでが描かれた絵本だ。
 前半は少女から犬へ、後半は犬から少女へ、語りかけるような文章は、まるで声が聞こえてくるかのよう。シンプルな絵とストーリー、その飾り気のなさがストレートに心に響いてくる。
主のいない犬小屋と、つなぐものがない鎖と首輪だけの絵。そのページに胸がつまる。
“みかちゃんがくれたごはん おいしかったよ” その一文と犬の絵は、我が家のわんこと重なって見え、ページを繰る手がいつも止まってしまう──。

 この絵本が刊行された2005年3月当時は、まだ犬を飼っていなかった。けれど、なぜだか心に残っていた。講談社の本を紹介するサイトやメールマガジン担当という仕事柄、毎日数多くの本に接しているものの、読める本はごくわずか。企画書やあらすじは読んでいても、ほとんどの作品は忘れてしまう。そんななかでも、10年近くたった今、こんなかたちで私の中に甦ってきたこの絵本に、“本の持つ力”というものをあらためて感じた。

 もういちど読みたい、と思ったものの手元にはない。10年も前の本だし、(失礼ながら)絶版かもと思い件(くだん)の編集者に尋ねたのだが、現在も流通しているとのことだった。重版がかかり、ロングセラーとなっていたのだ。そして、「書庫にちょうど2冊サイン本があったから」と、編集者の私物をプレゼントしていただいた。大切な大切な1冊となった。

 自分とわんことのこれまでをたどるような気持ちで開いたその絵本は、10年前とは明らかに違う実態をともなって私の心の奥底に迫ってくるようだった。本を読んで何年ぶりかで泣いた。

『ねえ、マリモ』は、短編映画が絵本化された作品。作者の山田さんも、絵を描かれた坂崎さんも、実際にこうした経験があり、本づくりの合間にそれぞれの経験を話しながら生まれた作品だとうかがった。
 作者の山田さんが「絵本にするからにはちゃんとそこまで書きたい」と主張されて、関係者でかなり議論されたという最後のページ。今やっと自分の気持ちがそのページに追いついてきたように思う。

“わたし、また、犬が飼いたい”

(2014.09.01)

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