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『カリスマコーチが教える走りの「新常識」「体幹」ランニング』
『カリスマコーチが教える走りの「新常識」「体幹」ランニング』
著者:金哲彦
発行年月日:2007/11/27
「夕飯は、お寿司よ」
この言葉を信用してはならない。お寿司だけを生きるよすがに、その日一日を過ごし、スキップしながら帰ってみると、
「じゃが芋をもらったから、肉じゃがにしたの」
「!?」
というような悲劇が起きかねないからだ。
同じく、信用できない言葉が、「マラソン、いっしょに走ろうね」である。小学校のマラソン大会。このセリフを言ったり言われたり、その結果、裏切ったり裏切られたりした方。同感していただけることだろう。
かくいう私も、マラソンは苦手だった。大会の数日前から、面倒だから本気で走らないと入念にアピール。一人だけ遅いのもいやだったので、友だちに「マラソン、いっしょに走ろうね」と念押しした。
しかし、そこは儚きかな、小学生の友情。A子もB子も、100メートル走かよ! とつっこみたくなるような、スタートダッシュを繰り出す。裏切る気、まんまんである。動揺のあまり、ペースが乱れ、あとは地獄の3キロが続いた。
そんなふうに悪戦苦闘していた当時の自分に本書を送りたい。著者の金哲彦氏は、有森裕子さんなどオリンピック選手から市民ランナーまで、幅広い層の信頼を集めるプロ・ランニングコーチだ。
そもそも、小学校では、“走り方”を教わらなかった。走ることは、ごく当たり前のことだと思われているのだ。
しかし、正しい走り方は、たしかに存在するという。そのキーワードが「体幹」である。体幹とは、身体の胴体部分を指す。重要な働きをする筋肉や内臓がつまった体幹。これを最大限活用して走るテクニックが「体幹ランニング」であり、正しい走り方そのものなのだ。
体幹ランニングをすると、おどろくほど自然に手足が動く。羽が生えたみたいに、前へどんどん進む。長く走っても、つかれにくいので、まわりの景色を眺める余裕がもてるようになった。走りながら、おしゃべりをすることも。これが楽しくて、やみつきになる。
田んぼのあぜ道をこけそうになりながら走ったあのとき、どんな景色が見えていたのだろう。みんなは何を考えながら走っていたのだろう。速いか遅いか。悪目立ちしないか。そんなことばかりにこだわっていたのが、今さらながら、もったいない。
まずは走ることを楽しもう。
夕飯がお寿司かはわからないけど、あなたと、いっしょに走りたい。今度は心からそう思う。
(2014.07.01)