講談社100周年記念企画 この1冊!:『親鸞』(上下)

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

212冊目

『親鸞』(上下)

五木寛之

滝口明子
人事部 60歳 女

一気に読み終える面白さ!

書籍表紙

『親鸞』(上下)
著者:五木寛之
発行年月日:2010/01/01

『えっ』と驚くような展開に、息を呑むような緊迫感。知らず知らずのうちに物語の中に引き込まれ、当時生きた人々の事情や生き様に驚いたり感動したり。気がついたら一気に読み終えていました。

 浄土真宗の開祖である親鸞の人生は、苦悩の連続でした。妻子を残して出家した父と、父の暴力におののきながら生きた母。家族のあたたかさをほとんど知らずに孤独をかかえ、それでも人恋しさを覚えつつ、「人はなぜ父や母のように苦しんで生きるのだろう」と自問自答を繰り返し、その答えを求め続ける自分を疎ましくも思う。

彼は日々思い悩みながらも、過酷な現実に立ち向かいます。人と向きあい、いま自分にできること、たとえ自分にできそうにないことであっても全力で臨む。そんな生き様が伝わってくる、とても印象深いシーンがあります。

 幼い親鸞は、わずか八歳で母を流行病で失い、二人の弟とともに京都の伯父に引き取られました。ある日、その伯父の家の下人である犬丸が、違法な賭博場をひらいた容疑で捕らわれてしまいます。連行された先は、平清盛の手先の六波羅童(ロッパラ ワッパ)の頭領・六波羅王子の館です。犬丸は、自分と弟を家族同然にかわいがってくれた恩人。親鸞は、町で知り合った無頼の者たちに助けを求め、強大な六波羅童たちと大活劇を繰り広げます。

 普段はウツウツと反省と後悔ばかりしているのに、ひとたび事が起こると祖父から受け継いだと思われる“放埒の血”を押さえきれずに、自らをその渦中に投じてゆく。そんな姿になぜか、いつも心がひかれました。

 この作品は宗教をテーマとしてはいますが、小説としての面白さにあふれ、親鸞の人となりや親鸞を取りまく人たちが、個性的に生き生きと描かれています。若い人にも是非読んでもらいたい、「私の一冊」です。

(2013.10.01)

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