講談社100周年記念企画 この1冊!:講談社文庫『夏服を着た女たち』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

203冊目

講談社文庫『夏服を着た女たち』

著者:アーウィン・ショー 訳:常盤新平

谷章
書籍宣伝部 60歳 男

男と女は、たいていすれ違う!?

書籍表紙

講談社文庫
『夏服を着た女たち』
著者:アーウィン・ショー
訳:常盤新平
発行年月日:1984/05/15

 若い時、夢中で読んだ本を大人になって読み返すというのは案外勇気のいることです。
 だって、がっかりしたくないし、己の読解力の幼さを恥じることにもなるじゃないですか。
 夏目漱石の『坊っちゃん』は素晴らしい! 小学校で初めて出会って以来、中学、高校、 大学と再読し、大人になっても三回読んでますが、毎回新しい発見がある。そのくせ『吾輩は猫である』は何度挑戦しても途中で挫折、最後まで読み切れたことないです。

 今回思い切って挑んだのは、アーウィン・ショーという作家の名前を日本の読者に一躍知らしめた『夏服を着た女たち』、表題作を含む10篇の短編が入った作品集です。
 訳者は、後に直木賞作家になる常盤新平さん。単行本は1979年刊行、手元にあるのは84年4月の奥付で、なんと15刷。よく売れたのを覚えています。気を引くタイトルだったし、カバーの和田誠さんの装画がとびきり洒落てました。私まだ20代の若者で、“大人の小説”を読んだ! という気になりました。
 因みに今回テキストにした講談社文庫版の奥付を見ると1984年5月初版で、1986年7刷のもの、文庫でもロングセラー!

 アーウィン・ショーは、1913年、ニューヨーク生まれのブルックリン育ち。長編も書いていますが、哀愁とか洗練といった形容が似合う短編の名手として名高い作家です。とりわけ恋愛小説が巧み。が、甘味な作品を期待すると裏切られます。たいていすれ違う、仲違いする男女が登場します。舞台は1930年代、40年代、50年代のニューヨークが多い。
 表題作の『The Girls in their Summer Dresses』は、1939年に雑誌『ニューヨーカー』に掲載されました。この作品は名作と言われながら、男性視線が際立った内容で女性読者の反感を買ったといいます。さもありなん、愛妻と一緒に散歩しているのに街中の美しい女たちについつい目を奪われてしまう男の話なのですから。ビター・スウィートと感じるのは男だけかもしれない。実は、ほろりとさせる落ちがあるんですけどね、ここでは明かせません。
 一方、『フランス風に』(In the French Style)では、自信満々の男が、いつでも声をかければ、いそいそ来てくれると思いこんでいる女性に手ひどくふられるという話。これが、またいい。今回再読して改めて感じ入ったのはショーが抜群のストーリー・テラーであること。
 一番気にいったのは『愁いを含んで、ほのかに甘く』(Wistful, Delicate Gay)。主人公の男はある美しい女優の卵に惚れて結婚を申し込む。女は結婚してもいいけれど私は大スターを目指してる、だから仕事優先よ! と宣言するしたたかな人物。別れの原因は成功の階段をのぼる彼女が起こしたスキャンダル。だが実はその事件の真相は……? 結構泣けるミステリー作品に仕上がっています。

 訳者の常盤さん自身、男女の話を小説やエッセイでずいぶん書いている。ネット検索してみると70歳目前の面白いインタビューを見つけました。
「競馬場に夫婦でくるとか、一緒にジョギングしているようなのはね、たいてい別れちゃう。男と女は、あんまり仲良くなっちゃだめなんですよ」。続けて「あんなに苦労して離婚して、再婚したのに、今もいつ別れてもいいようなもんで……まあ一緒にいますがね」というご自身の体験を語るくだりでは思わず微苦笑。もちろん半分冗談でしょう。氏の作品を読めばわかりますが、諧謔の人 、恥じらいの人でした。
 アーウィン・ショーの本を読み返すと氏の世界とどこか繋がっている気がして、久しぶりに常盤ワールドに浸りたくなりました。

◎追記
講談社文芸文庫版『夏服を着た女たち』が2000年に刊行されています。巻末の解説・年譜・翻訳書目リスト、すべて、本年惜しくも亡くなった常盤新平さんの手によるものです。ただし、単行本・講談社文庫と収録作品数は10編で同じだが、4編が差し替えられている。なので、本来はタイトルの前に「新編」とでもつけるべきと思われます。

(2013.07.01)

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