202冊目
講談社文庫『ストリートワイズ』
講談社文庫
『ストリートワイズ』
著者:坪内祐三
発行年月日:2009/04/15
これは現在、数多くの著作を持つ坪内祐三さんの最初の本です。単行本は97年に出ているので、オウム事件や丸山眞男の死などの当時の社会事象を扱ったエッセイが収録されています。私は文庫化された2009年の4月に手に取りました。ちょうど大学に入学した月です。リーマン・ショックが2008年の9月なので、95年頃程ではないにしてもそれなりに暗い世相でした。
ところで、題名の”ストリートワイズ“とはなんぞや?
「街を一つの大きな学習の場として、その学習の場を、時に自分を見失いそうになりながら、さ迷い歩いて行くうちに、獲得した知識や知恵、それがストリートワイズだ」(p10)
と坪内さんは書いていますが、「時に自分を見失いそうになりながら」というのがポイントだと思います。あえて分類するのなら、ストリートワイズ的なさ迷い方と反対にあるのが、マニュアルやカタログを頼りにする態度でしょうか。カタログを読んで自分を見失いそうになる人はいません。でも世の中には自分を見失いそうになるくらいおもしろい本があるのです。それが「活字でしか味わえない世界」(p239)です。
私にとって、この本には「活字でしか味わえない世界」を教えてもらった、というよりは足を踏み入れつつあったその世界にそのまま突き進んでも良いと言われていると感じました。それが正しかったかどうかは知る由もないのですが、大学四年間、読書と映画に明け暮れる日々を過ごしました。この手の世界はわかるひとにはわかる、わからないひとにはわからないものに溢れていますが、このさ迷ってばからりの四年間を通して、けもの道を歩いても帰ってこれる程度の勘は身につけられたと思います。
縁あって講談社に入社することになり、これからも活字と深く関わり続けることになりました。これもまた本の世界へと進むことを勇気づけてくれたこの本のおかげかもしれません。
(余談。2009年の6月頃だと思うのですが、通っていた大学のゲスト講師として坪内さんがいらっしゃいました。私は講義のみならず飲み会にまで潜入し、直接お話をする機会を得ました。その時は、今思うとかなり拙い質問をしたような記憶があるのですが、そんな学生相手でも坪内さんは嫌な顔ひとつせずお答えくださいました。自分にとって、物書きはかくあるべし、という原風景になっているような気がします)
(2013.06.15)