199冊目
講談社BOX『丸太町ルヴォワール』
講談社BOX
『丸太町ルヴォワール』
著者:円居挽
発行年月日:2009/11/04
ここまで分からないことってあるのだろうか……。それが『丸太町ルヴォワール』の特設サイトを見たときの最初の感想でした。掲載情報を読んでも、作品内容についてほとんど分からなかったのです(私の理解力の低さ故ではなかったと信じたい)。
学生時代に京都に住んでいた私は大学生協でこの本と出会い、「へえ丸太町(※京都の通りの名前)。装画もきれいだし気になるな」と、帰ってすぐにパソコンで情報を探りました(その場で即決購入しないあたりに資金面での学生的臆病さが感じられます)。そうしてたどり着いた特設サイトでの困惑。麻耶雄嵩氏の推薦文は意味不明、あらすじにも馴染みのない単語が並ぶ。あまりの分からなさに思わず「は?」と笑ってしまいました(本当に声を出して笑いました。人間、想像以上のことが起こると笑いが出るのですね)。
ですが「こんなに分からないのなら、むしろもう読むしかない!」と翌日買って読んでみたところ、大ハマり。数日かけてゆっくりと読むつもりでその日の深夜に読みはじめたのですが、眠気なんて感じる暇もなく気が付けば一気に読了していました。ちなみにそのときすでに明け方近く、それから眠ったのでその日の授業はごにょごにょ……。
主人公(?)・城坂論語の独白から物語は始まり、後半の疾走感あふれる裁判シーンまで作品の雰囲気は変幻自在に変化していきます。終盤における怒涛の展開は読むのを中断しようという気をまったく起こさせず、物語に吸い込まれるようにしてのめりこんでいるうちにぶんぶんふり回されて、読後の衝撃と高揚感は爽快です。
その興奮のままに各地で「面白い!」と騒いでいたところ、なんと著者の円居挽氏がTwitterを通じてコンタクトをとってくださったのです。さらには私の大学の先輩にあたるということもあって、お会いしていただけることに! その後お会いしたときにはどさくさに紛れてちゃっかり単行本に為書き付きのサインまでいただいてしまいました……。とんとんと進んでいく幸せな出来事に驚く余裕もなかったことを覚えています。幸運なことに、『丸太町ルヴォワール』の物語と同じような衝撃と高揚感を、現実世界でも息つく暇なく経験したのでした。
著者のサイン会やイベントなどが頻繁に開催される首都圏とは違い、地方住みの学生だった私には作り手側の方たちとお会いできる機会などほとんどありませんでした。単なるひとりの読者でしかなかった私にとって(今もそう大差はありませんが)、とても嬉しい思い出です。あのときの興奮はこれからもきっと忘れません。
現在では「ルヴォワール」シリーズとして続編が刊行されていて、1作目であるこの『丸太町ルヴォワール』はすでに文庫化もされています。文庫版では大幅な加筆修正がなされていて、そちらもまた違った読み味が楽しめるのですが、個人的には思い出の詰まったこちらの講談社BOX版がお気に入りなのです。
(2013.06.01)