講談社100周年記念企画 この1冊!:『3/11 Tsunami Photo Project』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

181冊目

『3/11 Tsunami Photo Project』(iPhone・iPad向けアプリ)

編者:講談社

東拓也
デジタルコンテンツ営業部 20代 男

世界に伝えた「あの日」の記憶

書籍表紙

『3/11 Tsunami Photo Project』
(iPhone・iPad向けアプリ)
編者:講談社
配信年月日:2011/04/14

 東日本大震災から数日ほど経った頃でしょうか、先輩の編集者から電話がありました。

「世界各地から著名なフォトジャーナリストたちが東北入りし、取材撮影を始めている。少しでも早く、世界中の人たちに被災地の姿を伝えたいから協力してほしい」

 社内でiPhoneやiPad向けのアプリ担当をしている私と被災地の写真集アプリを作り、全世界に配信をしたいということでした。震災後、被災地の人たちのために何かできることはないかと悩んでいた時だったので、すぐに取りかかりました。

 それからおよそ3週間、先輩は写真集の編集作業を、私はアプリの製作および配信手続きに務めました。日本の危機的状況を理解してもらえたのか、アップル社がアプリの審査基準を通常よりも緩めてくれるなどの粋なはからいもあり、地震から約1ヵ月後に配信を開始する事ができました。

 アプリには、14名の写真家によるおよそ120枚の写真のほか、それぞれの写真家の肉声メッセージが収録されています。彼らはどのような気持ちで瓦礫に覆われた震災直後の被災地を歩き、シャッターを切ったのか──。日頃はなかなか知ることのできない写真家の想いも知ることのできる内容です。リリース後、世界50カ国以上の方々にダウンロードされました。国内では有料アプリランキングの1位になったことが話題を呼び、多くの読者から応援のメッセージまでいただきました。

 編集部屋を訪れたときのことです。PCの画面上に現地から送られてくる写真が次々に映し出されていました。凄惨な風景や悲しみに暮れる人々の姿が多かったものの、互いの無事を確認し合えた家族や無邪気な笑顔を見せる子供たちなど、勇気を与えられるものも多数ありました。

 もっとも印象的だった一枚は、津波被害の「惨状」が反射する窓越しに、自衛隊員の横顔が写されたものです(Adam Dean氏撮影/アプリ内収録)。その若き隊員の表情からは、救助作業の任務に対する強い意志と誇り、そしてわずかな哀しみが感じられました。人間の複雑な心境がよく表れており、写真が持つ「伝える力」を改めて感じた瞬間でもありました。

 1年半が過ぎ、震災関連のニュースも減って来ていますが、iPhoneを開いてこのアプリのアイコンを見ると、あの時のことを思い出します。私にとって本当に大切な一冊となりました。

※受領したアプリの売り上げは全額、日本赤十字社に寄付し、被災した方たちの救済に充てさせていただきます。あの時の記憶を決して忘れないよう、一人でも多くの方に見ていただきたいと思っています。詳細は以下です。

公式サイト:http://311photoproject.org/

(2012.11.1)

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