講談社100周年記念企画 この1冊!:『日本中枢の崩壊』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

176冊目

『日本中枢の崩壊』

古賀茂明

間渕隆
生活文化第三出版部 51歳 男

20代のお母さんの「税金で殺されたくありません」

書籍表紙

『日本中枢の崩壊』
著者:古賀茂明
発行年月日:2011/05/23

 学者の場合とは違って、官僚のメールアドレスは、ネット上で見つけることはできませんでした。当時、経済産業省に所属していた著者、古賀茂明さんのことを知った私は、大東亜戦争終戦の翌日にも稼働していた郵便という古い手段を使い、万年筆で書いた執筆依頼を送りました。すると返事は21世紀のツール、eメールで返ってきました、でも2ヵ月後に。

 こうして始まった企画、仮タイトル『さらば経産省!』は、その数年前に山本七平賞を受賞した『さらば財務省!』の2匹目のドジョウ狙うもの。しかし校了寸前、日本民族の歴史に刻まれた2011年3月11日の東日本大震災が起きました。東京電力福島第一原子力発電所が水素爆発を起こしたあとの大混乱のなか、3月25日には、経済産業省のキャリアたちが、自分の家族だけを西日本に避難させているという情報が入りました(私も部長には内緒で、愛知県新城市まで逃げようとしました、すみません)。今となって判明したのは、この日、政府首脳が福島第一原発事故による「不測事態シナリオ」を作成していたのです。「日本政府は機能停止状態だ……、日本の中枢は完全に崩壊している」──そう確信しました。こうして新たに序章を加え、再編集して出来上がったのが、『日本中枢の崩壊』です。

 幸いなことに読者の支持をいただき、40万部に迫るベストセラーに育てることができました。ただ、このとき驚いたことは、きわめて堅いノンフィクションであるにもかかわらず、女性や若者からの電話やハガキがたくさん届いたことです。「官僚が甘い汁を吸っているのはギリギリ許せます、でも、税金で家族を殺されたくありません!」──幼い子どもを抱えた20代のお母さんが、電話で直接、そんな心の叫びを届けてきました。今まで声なき声だったものが、この事故を契機に、日本中の辻々から永田町と霞が関に集められるようになったのです。結果、出現したのが、毎週金曜日に首相官邸を取り囲む反原発デモなのではないでしょうか。日本は確実に変わりつつあると思います。

 ちなみに著者の古賀茂明さんはバリバリのキャリア官僚であったにもかかわらず、私が呼び出した新宿3丁目の「玄品ふぐ」の風景にもなじんでしまうような、ぜんぜん威張らない人。そう、私が大学でスペイン語を勉強する契機となった人物、チェ・ゲバラのように。今、橋下徹・大阪市長のもと特別顧問を務めていますが、明治維新のときと同様、改革勢力が西から拡張し、霞が関を包囲する日が来るまず。いや、その「日本維新」の日は、すぐそこまで迫っています。

(2012.09.15)

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