講談社100周年記念企画 この1冊!:漫画文庫『金田一少年の事件簿』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

175冊目

漫画文庫『金田一少年の事件簿』

原作:天樹征丸/金成陽三郎 漫画:さとうふみや

斉藤奨
BE・LOVE編集部 20代 男

大人の世界を初めて教えてくれた

書籍表紙

漫画文庫
『金田一少年の事件簿』
(1)〜(31)
原作:天樹征丸/金成陽三郎
漫画:さとうふみや
発行年月日:2004/08/04〜2012/05/11

 小学校4年生ぐらいの時、休み時間に校庭でクラスの仲間と遊びながら、ふと「毎日こんなことしてる気がするゾ。毎日同じ生活を繰り返してる気がするゾ。人生はなんて長いんだ!」と漠然と不安を抱いた瞬間を、その時の景色を、今でも鮮明に覚えています。

 別にませた子供ではなかったはずなのですが、それでもやっぱり早く大人になってみたくて、大人の世界には何があるんだろうとモヤモヤしていた時に、私にそれを初めて教えてくれたのは『金田一少年の事件簿』だったと思います。

 高校2年の主人公・一(はじめ)の普段気だるい感じに憧れ、天才的なひらめきにしびれ、いつもそばにいてくれる幼なじみ・美雪の優しさに安心して、剣持のおっさんやいつきさん、明智さんたちが見せる大人の覚悟にハッとして。殺人犯の罪の大きさと悲しい犯行の動機のアンバランスさに子供ながらに動揺し、知らなかったミステリーの世界にワクワクし、たまに出てくる美雪のサービスカットにドキドキし、夢中になって読んでいました。

「ファイル19/速水玲香誘拐殺人事件」で、誘拐事件の現金受け渡し役に指定されたはじめが足を怪我してしまいピンチに陥った時、「──足が使えないのなら頭を使え!!」と自分自身に必死に問いかけて、自分の可能性を必死に信じて、なんとか時間内に目的地へたどり着いたシーンがあります。それを初めて読んだ時、『頭とは使うためにある!』という至極当たり前のことに当時の私は猛烈に驚いたものでした。社会人になった今でもピンチになると、「──足が使えないのなら頭を使え!!」と心の中で必死に唱え、全ての力を集中させ、この世界の主人公になったつもりで乗り越えようとする謎の癖があります。

 思春期真っ只中だった私は恋愛面にも大きな影響を受けました。「ファイル6/悲恋湖伝説殺人事件」で“カルネアデスの板”の話になり、美雪から「はじめちゃんならどうする? 私とはじめちゃんが同じような目にあったら……」と問われたはじめの返答のなんとみずみずしいこと。好きな人を想う気持ちはなんてまぶしくキラキラしているんだろうと知りました。

 姉ともよく推理合戦をしました。お互いに読んでいいのは「謎はすべて解けた!!」とはじめが決め台詞を言ったページまで。その後の謎解き編は絶対に読んではいけません。それまでに出た情報から事件の真相やトリック、そして真犯人を大真面目で披露し合うのですが、私はいつもずさんな推理をして姉から猛ツッコミを受ける羽目になり、自慢げに核心をつく姉を見てイライラして、最終的にケンカをふっかける……という情けない記憶が蘇ります。

 姉の部屋にも私の部屋にも本棚はあったのに、この『金田一少年の事件簿』だけは全巻キレイにリビングの本棚に揃っていて、家族みんなの作品でもありました。母なんかは、「ドキドキしてあかんわ……」とまず後ろをパラパラめくって犯人が誰なのかを確認してから最初に戻って読み始めていて、われわれ姉弟はよくブーイングをしたものですが、最近も「『金田一少年の事件簿』シリーズの新しいコミックスが出てたから買ったよ」と母から絵文字つきのメールが来ていて、家族で語り合える作品にめぐり合えたというのは幸せなことだなぁとしみじみ感じています。

 大人の世界を覗いてみたいと思っていた少年の日の私に、考え出すとエピソードがとまらないぐらい、たくさんの世界の扉を開けてくれた『金田一少年の事件簿』。出会った小学校から大学卒業までの実家暮らしの日々、ひたすらこのコミックスを読みながら晩ごはんを食べていたお行儀の悪い私は、きっとまだまだ恥ずかしいぐらい影響を受けています!

(2012.09.15)

講談社の本はこちら

講談社BOOK倶楽部 野間清治と創業物語