講談社100周年記念企画 この1冊!:講談社文庫『影法師』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

174冊目

講談社文庫『影法師』

百田尚樹

秋元賢一
パートワーク編集部 40代 男

時代小説の面白さを教えてくれた1冊!

書籍表紙

講談社文庫『影法師』
著者:百田尚樹
発行年月日:2012/06/15

 百田尚樹さんの小説が好きで、作品を読み続けています。大ヒット作の『永遠のゼロ』から始まって、このコーナーでも紹介された『風の中のマリア』や『輝く夜』『錨を上げよ』、他社作品でも『BOX!』『モンスター』『幸福な生活』『プリズム』、そしてノンフィクションの『リング』と、作品が刊行されるたびに手にしています。写真のサインは、じつは『影法師』の写真ではありません。某〇〇舎(伏せ字にする意味ないですね)主催で行われた別の著書のサイン会に、素性を隠して並んで書いてもらったものです。サインも気取ったところがなく、じつに実直な感じが伝わってくる気がします(ただ最近、百田さんのツイッターを見ていると、かなり過激な発言も見受けられるのですが…)。

 百田さんは不思議な作家で、同じジャンルの小説は二度と書かないというポリシーを持っています。どんな作家にも得意ジャンルや不得意ジャンルがあるというのに、そんなことはふつう考えられないですよね。もともと放送作家を本業としている方なので、同じようなネタを繰り返して使う手法が許せないのかもしれません。

 そんな百田さんが書いた最初で最後の(はずの)時代小説がこの『影法師』なのですが、正直言いますと、独特な言い回しや用語が出てくるので、私は時代小説をそれまで苦手にしていたのです。ですから百田さんの本とはいえ、最後まで読み通せるのか最初は少々疑問でした。実際、読み始めてすぐに、中間(ちゅうげん)や逐電といった時代小説特有の言葉が出てきて、今回はどうだろうと思ったのですが、読み進めていくと、そんなことは全く気にならずに一気に読み終えてしまいました。その後、あらためて大御所の時代小説も読んでみましたが、決して引けをとらない面白さなんじゃないかと思います。時代小説を一作品しか書かないなんてもったいなさすぎます。とくに作品の本筋とは関係ないのですが、百姓一揆のくだりは泣けました。何度読み返しても毎回ウルウルしてきます。

 ちなみに最近刊行された文庫版には、巻末に6ページの袋とじがついています。これは「小説現代」連載時、最終回に掲載された「最終章」なのですが、単行本刊行時にはカットされた箇所です。この最終章があったほうが作品としていいのかどうかは…ぜひご自分で読んで判断してみてください。

 百田さんの最新刊『海賊とよばれた男』も今、ページをめくるたびにワクワクしながら読み進めています。ご本人は、あと何冊か書いたら執筆をやめるともおっしゃっているのですが、そんなことを言わずに、これからもずっと私たちを楽しませてほしいものです。

(2012.09.15)

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