講談社100周年記念企画 この1冊!:モーニングKC『働きマン』(1)〜(4)

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

172冊目

モーニングKC『働きマン』(1)〜(4)

安野モヨコ

田ノ上博規
週刊現代編集部 26歳 男

リアル「働きマン」

書籍表紙

モーニングKC
『働きマン』(1)〜(4)
著者:安野モヨコ
発行年月日:2004/11/22〜2007/08/23

 一話目、のっけから週刊『JIDAI』編集部・松方弘子のコメントが刺激的だ。

<あたしは仕事したな――って思って死にたい>

 衣食住、恋人とのプライベート、すべてを犠牲にして働く彼女を見て、「こんな『社畜』にはなりたくねー」とハッキリ思った。

<オレは「仕事しかない人生だった」 そんなふうに思って死ぬのはごめんです>

 どちらかといえば、新人編集者・田中邦男に共感した。

 本書「働きマン」では出版社を舞台に「働くこととは何か」という普遍のテーマが描かれている。登場人物はやりたい仕事とやりたくない仕事の狭間で揺れて、自分のやっている仕事の意味を考える。主人公で編集者の松方は冒頭に述べたようにワーカホリック。悩みもあるが、ここぞと言うところで「男スイッチ」がバチッと入り、仕事に没頭するから「働きマン」なのだ。

 大学2年生の夏、青春18切符を綴りで買って四国、九州を周遊していた。野宿する度胸を持ち合わせてなかったので、大方、漫画喫茶泊が多かった。そこで松方に出会う。

 彼女のように「30歳までに編集長になる!」なんて風には、将来のことをまるで考えていなかった。地元を出て東京モンになったつもりが、下宿先は田舎。学んでいた法律学には興味がわかない。時々の旅行こそ楽しいが、「なんだか学生生活ってつまんねー」と毎日を過ごしていた。だから、「働きマン」松方の仕事との距離感を否定しつつも、世の中の刺激的な事柄ととっくみあう姿に嫉妬した。

 あれから7年、今年の6月から僕は週刊『JIDAI』のモデルとなった「週刊現代」編集部で働いている。テレビドラマ版で松方を演じた菅野美穂はいないし、梶さんを演じた大好きな吉瀬美智子ももちろんいない、わりと男臭い部署だ。ただ、読み上げた瞬間、ズタボロにされるプラン会議、あっという間に過ぎていく入稿・校了……、日々の雑誌作りには「働きマン」の世界が広がっている。著名人に関する“スーパータレコミ”が編集部にかかってきてそのまま大阪に出張したり、張り込み中、近隣住民に通報されて警察にお世話になったり、大人の事情で「あの人気アイドルは“今は”追いかけるな」というお達しが出たりもする。

 今稿のため久しぶりに「働きマン」を読み返してみると、プラン表のデザインが現実と一緒、松方がキレてテレビにぶっかけるコーヒーのカップが備品と一緒、徹夜明けの納豆巻きが上手い――なんて働かなきゃわからない発見があって面白い。

 そして、松方弘子が理想の編集者であることに気付く。彼女のように猛進し、正義感に満ちて色々なことにキレるプランの泉に僕はなれていない(徹夜で入校中――校了したら、とりあえずビール! 〆はラーメン!――と、食べることばかり考えているから、僕は“こぶちゃん”か)。だからこそ少し憧れを覚える。“仕事と共に死ぬ”わけにはいかないが、プライベートは二の次で仕事のことを考えはじめる。

 そうして、僕も立派な「社畜マン」になりつつあるのかもしれない。

(2012.09.01)

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