講談社100周年記念企画 この1冊!:現代新書『中国料理の迷宮』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

170冊目

現代新書『中国料理の迷宮』

勝見洋一

太田博之
週刊少年マガジン編集部 48歳 男

美味しい迷宮には、いまだ出口見えず!?

書籍表紙

現代新書
『中国料理の迷宮』
著者:勝見洋一
発行年月日:2000/05/20

 ギョーザがたまらなく好きだ! こどもの頃から、ギョーザを4人前も5人前も注文する“おとな食い”に憧れていたボクは、当然のように中国料理が好きになっていった。

 80年代の美食ブームに先鞭をつけた『美味しんぼ』で紹介された名菜「乞食鶏」との遭遇は入社2年目、担当していた漫画家の忘年会でのことだった。『餃子三都物語』と題したグルメ企画を担当した29歳のときには、“聖地”宇都宮でギョーザを70個も平らげていた。

──そして2000年、ボクは“この1冊!”『中国料理の迷宮』に出会った。

 めくるめく世界が待っていそうなタイトルを付けられた新書の奥には、著者・勝見洋一さんの中国料理に対する悪魔的ともいえる知識と深い愛情が広がっていた。
「料理の文化を支えるものとは何なのか。共産主義国家においては政治力そのものの反映である……」
 と断じる著者は、中国の政治・経済・文化・歴史を料理という“標準器”をもって腑分けしてくれる。まさに中国料理とは、国家の“意志”なのだと……。

 同時に、ボクの中国料理巡礼は、ますます熱を帯びてきた。

 あるときは熊の掌を食し、鶴のスープにトライし、SARS騒動でいまはもう幻の食材となったハクビシンの香味肉を堪能する。池袋の路地裏で旧満州の脂っこくて濃厚な味の肉塊に喰らいつき、南の桃源郷・雲南の珍しいキノコ料理を楽しんだ……。東京で探検する中華の迷宮もなかなかの怪しさだった。

「食は広州に在り」と訪ねた広東料理の都では、昼と夜に料理を食べ終わるやすぐに便意を催すという摩訶不思議な体験をした。といっても食中毒というわけではなく、いたって健康的なものが一日2回、気持ちよく出てくるのだ。
「民間の料理は“医食同源”の道教的思想を根底に置く……」
 まさに、中国料理の神秘を実体験した瞬間だった!

 オリンピックの前年に行った北京では、家常菜店が連なる庶民的な街路で、中国各地から首都に集まった地方料理をハシゴした。しかし紫禁城前の屋台に並べられた、“小さな”サメや“巨大”ゲンゴロウの串焼きだけはどうしても食べられない。いったいこれは、どんな地方の料理なのだろうか?
「中国という国はどこの国よりも首都に文化が集中する。科挙の試験の進士たちが中央を目指すように、全国から料理人が名をあげようとやってくる……」
 お尻から串刺しにされた人食い魚と水生甲虫が仲良く並ぶシュールな光景に、「中国料理、畏るべし」と、なぜだか負けた気がした……。

 この本を読んでから、もう十年余りが過ぎた。急激に変貌しつづける中国の昨今では、どんな料理が好まれているのだろうか? いまふたたび勝見さんに“それからの中国料理”の話を聞かせてもらいたい。そしてあらためて、現代中国の“意志”を味わいに訪れたいものだ。

(2012.09.01)

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