講談社100周年記念企画 この1冊!:『赤毛のアン』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

167冊目

『赤毛のアン』

作:L・M・モンゴメリ 訳:村岡花子

日下部由佳
児童図書第二出版部 44歳 女

わたしの宝物をご紹介します

書籍表紙

『赤毛のアン』
作:L・M・モンゴメリ
訳:村岡花子
発行年月日:1973/10/20

「なにかを楽しみにして待つということが、そのうれしいことの半分にあたるのよ。ほんとうにならないかもしれないけれど、でも、それを待つときの楽しさだけは、まちがいなく自分のものですもの。なんにも期待しないほうが、がっかりすることより、もっとつまらないと思うわ。」

 高校生のとき、学校の図書室で手に取ったのがきっかけで、授業中に隠し持って、自室のベッドにもぐりこんで、なんべんも読みふけった本です。

 図書室の本には、その本が貸し出された年月日がスタンプされていきますよね。それを見てあれこれ考えるのが好きなのですが、そのアン・シリーズの本は、何年か前にだれかが借りたのを最後に、ずっと本棚にあったようで、2巻目以降はわたし専用! なんだか宝物を発見したような気がしてうれしかったのを覚えています。

 いま思えば、環境にも友人にも恵まれていた高校時代だったのに、なぜか居場所がないという漠然とした気持ちがありました。本の中のアンは、とんでもない失敗を重ねながらもいつも前向きで明るく、それに励まされていたのかもしれません。友だちにもすすめまくっていたようで、今でも当時の友だちに会うと、「『赤毛のアン』を読めと言われた」と笑われます。初対面の人でも、「アンが好き」と言われただけで、「いい人だ!」と思ってしまいます。

 私が今いる部署は、主に小学生向けの児童文庫「青い鳥文庫」を作っているところです。ここへ異動してきた7年前、当然、名作『赤毛のアン』もありました。ただ、1984年に出版された本で、装丁も古くなってきているということで、縁あって新装版を担当できることになりました(ああ、このことだけでも、講談社に入ってよかったと思います。いまでも夢のようです)。

勉強のためと称し、手当り次第、いろいろな『赤毛のアン』を読みました。70年代に出されていた講談社版の『赤毛のアン』も、倉庫にのこる貴重な見本の50冊から1冊とりよせてみました。

 それをみてびっくり! わたしが高校生のときに、図書室で借りて読んでいた本だったのです(大人になってからは、新潮文庫版を手に入れて読んでいたので、どんな体裁の本だったのか忘れてました)。

 そのときはじめて、自分が親しんでいたアン・シリーズの本は、『赤毛のアン』をはじめて日本に紹介した村岡花子の訳で、講談社の本だったということに気づきました。村岡花子記念館のお話によれば、往年のファンから、いまでも「ほしい」という問い合わせが多い本なのだそうです。わたしもあったら手元にほしいですが、残念ながら、もう講談社にも見本分しか残っていません。

 2008年の夏、アン生誕100周年の年に、青い鳥文庫の『赤毛のアン』は新装版になりました。小学生に受け入れられて、もう12万部に届こうとしています。

 新装版にするにあたり、ご自身が翻訳者でもある、村岡花子さんのお孫さんの村岡美枝さん、恵理さんにご協力いただき、『刺し子』を『キルト』になど、いまの子どもたちには原語のほうがわかりやすいだろうというものを直したりしました。

けれども、『腹心の友』『さんざし』『ふくらんだ袖』『ドライアドの泉』など、『赤毛のアン』のファンには絶対はずせない言葉は、そのまま残してあります(ファンの方以外にはなんのことかわかりませんね、ごめんなさい)。

 小学生向けの文庫としては、ボリュームたっぷりですが、ひとつひとつのエピソードが削りがたく、字も小さく、分厚い仕上がりになっています。児童向けの『赤毛のアン』は、内容が半分以下に削られているものも多いですが、細かいエピソードやなにげない会話や言葉が心にのこる作品です。総ルビでもありますし、ぜひ青い鳥文庫で読んでもらいたいです(笑)

 アン・シリーズは、アンが50代になるまでのお話が続きます。大人になって読み直してもまた発見があり、支えになってくれる本だと思います。

 わたしは高校生のときでしたが、小学校のときにアンと知り合えば、もっと長い間、宝物をひとつ心に持てますよね(うらやましいぞ、小学生!)

 そして、この本を読んでくれたら、アンが好きだったお母さん、おばあちゃんとも話がはずむことでしょう。「どんなにすすめても読もうとしなかった娘が、この青い鳥文庫は絵がかわいい!といって読んでくれました」というハガキもいただきました。

 こんな素敵なことが将来待っているなんて、高校生のときには思いもしませんでした。

 そして、この青い鳥文庫がまた古くなった頃、「むかし、青い鳥文庫で読んで、大好きでした!」という編集者が現れて、またアンのスピリットを伝える新しい装いの本を作ってくれたらなあなどと夢想したりしています。

(青い鳥文庫のHACCANさんの描くアンのイラストがまた素晴らしいのですが、それはまたちがうお話ということで……。)

(2012.08.01)

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