講談社100周年記念企画 この1冊!:『横尾忠則全集 全一巻』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

164冊目

『横尾忠則全集 全一巻』

横尾忠則

新井公之
生活文化第三出版部 49歳 男

佇まいのよい本が好きです。

書籍表紙

『横尾忠則全集 全一巻』
著者:横尾忠則
発行年月日:1971/03/10

 この本は横尾忠則氏が35歳のときに出した「全集」です。彼が「画家宣言」したのが81年だから、それより10年前のキャリアで、すでに「全集」を出す(実際は横尾氏の初期の作品集なのですが)、という常識や時間軸に囚われないスタイルもかっこいいですね。それにも増して、このブックデザインは最高です。函から帯からページ細部に至るまで、横尾氏のディレクションが隅々まで行き渡っています。1ページ1ページ捲るたびに、今もって新鮮なグラフィズムに溢れていて、ドキドキしますよ、ホント。

 しかし、この本はただドキドキするだけではありません。作品集にもかかわらず、この本は横尾氏の生きざまの生々しいドキュメンタリーになっている。それは壮大な物語に匹敵する“読み応え”です。

 横尾氏はこの全集は収録された作品の「墓場」だとしています。過去の作品を1点1点を葬ることによって死への恐怖から逃れようとしている、とも書いています。次の創造への出発点を探し出そうとして、もがき続ける、横尾氏の芸術家としての“産みの苦しみ”の七転八倒の声が聞こえてきます。そうやってページを捲っていくと、グラフィックデザインへの表面的なドキドキ感はいつの間にか、作家の苦悩を追体験するような息苦しさに変わってくるのですが、不思議とページを捲ることを止めることはありません。むしろ、作品1点1点への集中度が増してきて作品が自分の深いところに沈潜していくような気がしてきます。横尾氏が葬った作品が、読者である私にとって“新たな創造の種子”になっているような“錯覚”(じゃなければ、なおよいのですが……)さえ起こさせてくれるのです。

 さて、この本には古書店で出会いました。大切な本を買ったときはノートにデータをつけることにしています。この本を買ったのは、1989年、京都の古書店にて3500円で買った、とあります。奥付を見ると「昭和四十六年三月十日第一刷」とあり定価は2900円、つまり、定価より600円高く買いました。ちなみに、今や古書市場でこの本は、状態が良ければ3万円というケースもあるほどです。版を重ねた本なので、探せば見つけるのは難しくないのですが、実は状態の良い本が意外と少ない。「初版、帯、函、本体、状態良」なんてなかなか出てきません。もう40年前の本ですから、どんどん希少になるばかりです。まだ手に取ることが出来るうちに、ぜひ、状態の良い実物に触れてほしい本です。

 蛇足ながら、横尾氏は、我が社から1978年に『我が坐禅修行記』という傑作も出版しています。実はこの本は『坐禅は心の安楽死』というタイトルで平凡社から今年(2012年)復刊したのですが、個人的には、「本の佇まい」という観点から、1978年版を入手されることを強くお勧めします。

(2012.07.15)

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