158冊目
講談社文庫『悦楽王 鬼プロ繁盛記』
講談社文庫
『悦楽王 鬼プロ繁盛記』
著者:団鬼六
発行年月日:2011/11/15
2007年某月某日は、奇跡の一夜だった。
そしていま、講談社文庫版『悦楽王』の帯を見る。「バカでもエロでもええじゃないか。鬼才、最後の自伝的小説」「ありがとう、団さん」。
私も言おう。ありがとう、団さん。
──団鬼六の最後の記念碑的作品を出してみないか。出版プロデューサーN氏の提案に一も二もなく飛びついた。N氏は、鬼六作品ではたびたび登場する「川田」のモデルとなったいわれている伝説的人物。彼と長年の縁があったおかげで、団さんと仕事ができるなんて夢にも思わなかった僥倖。
ご自宅で何度か打合せをするなかで、「今度は歌舞伎町で」ということになった。当然一軒目から飲み続けることになり、行き着いた先が団さんが長年馴染みのゴールデン街そばのスナック。その店には先客がいた。アラーキーこと、荒木経惟さん。
大文豪と天才カメラマンの豪華すぎる邂逅に立ち会えるなんて、これぞ編集者冥利に尽きるというもの。
「おっ、君いい頭してるねえ」
その後の展開は語るより、写真を見てもらえればわかりますよね。本当に見事な○○○。それも、吹き出している(表現は自己規制しています)。
制作中は団さんを筆頭に、爆笑の渦。私には何を描いているのかさっぱりわからない。サインペンのペン先は思った以上に尖っていて、本当に痛かったことだけが記憶に残る。
この夜はこのまま、頭にあった芸術作品を消さずにタクシーに乗り込み、家に帰った。家人曰く、
「どうして色紙に描いてもらわなかったのよ。お宝になったかも知れないのに」
肉体芸術を解さない者とは話はできないと悟った。荒木さんが描いている。団さんが笑っている。この悦楽。
一期は夢よ、ただ狂え。
『我、老いてなお快楽を求めん―鬼六流駒奇談』(2008年)『悦楽王 鬼プロ繁盛記』(2010年)『死んでたまるか』(2011年)と、自伝的作品を講談社で出版できたのも、この夜のおかげだと個人的には思っている。
(2012.07.01)