154冊目
漫画文庫『あしたのジョー』
漫画文庫
『あしたのジョー』(1)〜(12)
著者:高森朝雄/ちばてつや
発行年月日:2000/06/09〜2000/11/10
品行方正とはほど遠い生き方をしてきました。幼稚園を牛耳り、園内で独裁制を行ってしまいました。職員室や校長室に毎日のように呼び出されてはお叱りを受ける小学生時代を過ごしてしまいました。中学校の野球部では先輩にたてついてしまったこともありました。高校の教師の言うことなど聞く耳をもっておりませんでした。
そんな恥の多い青春を謳歌してきた私が一冊の本との出会いによって、自信を持って美しいといえる青春へと変えることができました。
その一冊こそが『あしたのジョー』でした。そうです、アウトローな私にとっての一冊とは『はじめの一歩』でも『リングにかけろ』でもありませんでした。ドヤ街を舞台にアウトローな青年、矢吹丈がボクシングに明け暮れる『あしたのジョー』だったのです。
この漫画と出会い、大学時代からボクシングに明け暮れることになりました。矢吹丈のように泥臭くても、やさぐれていても輝ける世界があるのかもしれない。そう思い、ボクシングを始めたのです。
「肘を脇の下から離さぬ心構えで、やや内角を狙い、えぐり込む様に打つべし。」「右ストレートは、右拳に全体重を乗せ、まっすぐに目標をぶちぬく様に打つべし。」丹下段平が矢吹丈に与える「あしたのために」というこうした指南は私にとってボクシングのバイブルでありました。矢吹丈に憧れるあまり、ガードをあまりしないボクシングスタイルを取り入れ、伝家の宝刀であるクロスカウンターまで必死に練習しました。苦しい減量期にはなかなか体重が落ちなくて、矢吹丈のように下剤を使ってみたこともありました。
そしてボクシングに夢中になっていた私はボクシングに関することは何でも吸収したいと思うようになっていったのです。こうして先輩やコーチの教えを素直に聞くようになっていきました。ひねくれた人間であった私が徐々に素直になっていったのです。やんちゃばかりしていた私がひたむきにボクシングに打ち込むようになっていきました。恥の多い青春が血と汗と涙にまみれたとても美しい青春に変わっていったのです。
ボクシングをやめた今、血と汗と涙にはまみれることはなくなり、酒にまみれるばかりですが、あの頃の思い出は色あせることはありません。恥の多い青春時代の記憶は忘れたとしても、「あしたのために」という丹下段平の教えとウルフ金串戦でみせた矢吹丈のクロスカウンターは心に残ることでしょう。私を変えてくれた一冊なのですから。
(2012.06.15)