153冊目
講談社文庫『幸福な食卓』
講談社文庫
『幸福な食卓』
著者:瀬尾まいこ
発行年月日:2007/06/15
「真剣なもの」と「テキトーなもの」の中間地点くらいにあるものが好きだ。すごく力を入れてがんばっているひと(真剣なもの)を見ると、「ちょっとがんばりすぎではないですか?」と心配になる。他方で、全く不真面目にしかものごとに取り組まないひとや、「あんなことにマジになって馬鹿みたい」というシニカルな態度をとるひと(テキトーなもの)を見ると、「もっと真面目にがんばれよ!」と義憤に駆られる。そのどちらでもなく、中間地点くらいにあるものが好きだ。言ってみれば「それなりにがんばる」というかんじだろうか。。
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たとえば、中学校のころの友人に、部活にかんしては胃のなかのものを吐くまでをがんばるのだけど、合唱コンクールではふざけているばかりで、全く真面目に歌わないというひとがいた。かれのことはけっこう好きだったけど、「超がんばる」と「全然がんばらない」のあいだにある「ちょっと真面目にやる」「それなりにがんばる」という選択肢がかれのなかにはない、ということを知ったときには、ヘエ! ぼくと好みが全然ちがう! と驚いたものだった。
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『幸福な食卓』は、こういう「真剣なもの」と「適当なもの」の中間にあるいい具合の真面目さとはどういうものか、とか、それなりにがんばるというのは具体的にどんなかんじなのかということをおしえてくれる。崩壊した家族と、その家族を取り巻くひとびとをめぐるさまざまなエピソードは、深刻なようでいて、どこかコミカル、悲劇的なんだけど、ところどころにユーモアのスパイスがふりかけられていて、とてもバランスがいい。
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特に印象に残っているのは、主人公・佐和子の兄、直ちゃんのエピソードだ。直ちゃんは、父親にかんしてのある事件をきっかけに、「真剣さを捨てれば困難は軽減される」というモットーにしたがってテキトーな生き方を選択した。ところが、ある出来事が発端となり、こんどはきっちりした縛りをじぶんと家族に課して生活しようと試みるようになる……。と、「テキトー」と「真剣」のふたつの極を揺れ動いた直ちゃんが最終的にどういう選択をするのかは、是非みなさんに読んで確かめてもらいたい。
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最後に、蛇足めいてしまうけど、ぼくはこの本のなかで多用される、「そうなの?」「そうだよ」というやりとりが大好きだ。じぶんがしゃべったことが誰かに届いている、というシンプルなよろこびをかんじさせてくれるからである。さて、この文章も誰かに届いてくれるとうれしいのだけど。
(2012.06.15)