講談社100周年記念企画 この1冊!:講談社文庫『46番目の密室』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

151冊目

講談社文庫『46番目の密室』

有栖川有栖

鳥居早希子
平成24年度新入社員 23歳 女

「読まず嫌い」の後悔

書籍表紙

講談社文庫
『46番目の密室』
著者:有栖川有栖
発行年月日:1995/03/15

 洋館、密室、アリバイ、暗号……そんな言葉を聞くと、どきどきします。

 部屋の本棚に並ぶ本の多くには物騒な単語が並んでいます。毎年某テーマパークの謎解きゲームを楽しみにしています。どんな本が好きなの、と聞かれると悩んだ末にやっぱり「ミステリ」と答えます。さぞかし詳しいのだろう、と思われるかもしれませんが、恥ずかしながらそうでもありません。私とミステリの出会いはごく最近、大学1年生の春でした。

 話は少し飛びますが、私には食べ物の好き嫌いがほとんどありません。嘘です。正確に言うと、好きな食べ物はたくさんありますが、嫌いな食べ物はあまり思いつきません。昔は「食べない子」だったそうですが、好き嫌い、食わず嫌いを許さない両親のおかげで立派な食いしん坊に育ちました。しかし、そんな両親も私の「読まず嫌い」は直してくれませんでした(「そんなこと知るか」という声が聞こえてきそう……)。

 なんだか古くさくて、暗くて、マニアックで、読みづらい。

 これが私の抱いていた「ミステリ小説」に対するイメージです。好きな本は他にたくさんあるし、わざわざ他の、あんまり好きそうじゃないものに手を出さなくてもいいや……。多くの本を読破するというより好きな本を何度も繰り返し読む、という読書スタイルだった私は、本が好きだったのにもかかわらず奇跡的にあらゆるミステリをきれいに迂回して育ってしまっていました。苦手意識はあったものの「絶対読むもんか」というほどの意地があったわけでもありません。失敗に終わった大学デビューの延長で読んだことのない本を読んでみよう、と手に取ったのが『46番目の密室』でした。私にとっては運命の出会いです。

 この本は犯罪社会学の助教授(現在は准教授)を探偵役、その友人で推理小説家の有栖川有栖を助手役とするシリーズの第1作目です。タイトルからも分かるとおり、密室ものです。集まった推理小説家たち、暗号、謎の死体、クールな探偵に大阪弁の助手。これでもか、これでもか、と魅力を見せつけられ、ミステリ小説のなんたるかをこれっぽっちも知らなかった私にとって、そこはめくるめく新世界でした。「表紙怖いなあ」というあんまりな第一印象も吹き飛び、あっという間にひき込まれました。

 読後、面白い小説に出会えた喜びと興奮に満たされながらも私の胸にあったのは、こんなに面白いものを知らずにいたなんて、という悔しさです。私も幼少期からミステリに親しみ、探偵ごっこを満喫したかった……! いくつになっても憧れるのは自由、でしょうか。

 食べ物でも、読み物でも、試しもせずに苦手でいることほどもったいないことはありません。まずは挑戦してみよう、イメージを持つのはそれから。これはそんな心がけを教えてくれ、新しい扉を開いてくれた大切な1冊です。

(2012.06.01)

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