149冊目
講談社文庫『遠い太鼓』
講談社文庫
『遠い太鼓』
著者:村上春樹
発行年月日:1993/04/15
この本の中で、村上春樹は「ある日突然、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。」と語っています。
毎日が楽しいわけじゃないけれど、ふとどこか遠い、誰も自分を知らない場所に行ってみたい。そんな思いは、誰もが一度は抱いたことがあるのではないでしょうか。かくいう私も、もれなくそんな人間の一人です。講義をうけたり、サークルの仲間と遊んだり、麻雀をしたり、そんな大学生活が楽しくないわけではないけれど、まったく違う文化を感じてみたい、広い世界を旅してみたいという思いを持っていました。そんな私に、海外へ旅に行くきっかけというか、決心みたいなものを与えてくれたのがこの本です。この本に刺激をうけ、私は大学時代、アジア、南米、ヨーロッパ、中東など、様々な国を旅しました。
『ノルウェイの森』や『1Q84』などの作品で有名な村上春樹ですが、この『遠い太鼓』も間違いなく傑作のひとつであると思います。村上春樹の巧みな文章表現は、小説だけでなく、この紀行文でも大いに発揮されています。特に、文化の違いを説明する描写なんかは、かなり笑えます。村上さんが、エーゲ海の小さな島、ミコノス島に滞在していたときの話。村上さんが趣味のジョギングをしていると、ミコノス島の人々は不思議がってこう尋ねます。「そんなに急いでどこに行くの?」と。彼らには、何の目的もなくただ走るという文化が理解できないのです。私はこれを読んだ時、かなりの衝撃をうけました。世界には、自分とはまったく違う環境で、まったく違う生活をしている人が大勢いる。そう思うと、旅をしたくてたまらなくなりました。
村上春樹の小説が好きな人はもちろん、「村上春樹の世界観は何となく苦手だな」と思っている人にも是非読んでほしい作品です。私も、この本を読むまでは村上作品を一つも読んだことがありませんでした。『遠い太鼓』によって村上文学に目覚め、今ではすっかり村上ファンであります。
読む時期としては、大型連休の二ヵ月前くらいをおすすめします。そのくらいの時期から、休みに何をしようか考え出すだろうからです。書店に行けば、様々な旅行のガイドブックがあります。行く先どころか、旅行に行くかも迷っているという人は、ガイドブックのコーナーに行かず、講談社文庫のコーナーで、この本を手にとってみてください。きっと旅をしたくなるはずです。
(2012.06.01)