講談社100周年記念企画 この1冊!:『さよなら ようちえん』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

146冊目

『さよなら ようちえん』

さこももみ

橋本知沙
システム部 32歳 女

大粒のなみだ

書籍表紙

『さよなら ようちえん』
作:さこももみ
発行年月日:2011/02/03

 IT企業から中途入社した私は、運よく書籍販売部への研修機会に恵まれました。

 研修先の一つに、子供向けの本の販売を担当している部署があり、そこで20年ぶりに絵本と再会しました。

 私のご指導役は、ダーク系のスーツに身を包み、大きな黒ぶち眼鏡をかけ、口調は真面目そのもので、一見「部長」に見えなくもない、マサオさん(仮)でした。

 研修の一環で、書店の方へ配る絵本の注文書作成を任され、はりきる私にマサオさんが手順を説明下さいました。その際に、この『さよならようちえん』について、1ページずつ内容を紹介してくれました。内容紹介が、終盤に差し掛かった時、突然、マサオさんが大粒の涙を流しました。

 この絵本は、卒園する園児に向けて書かれたもので、主人公がクラスメート9人との思い出を1人ずつ綴っています。

 最後に語られる思い出は、いつもひとりぼっちでいるひろきくんが、庭のすみっこで服についた雪の結晶を見ていたシーンです。

 そこで、園長先生は彼に雪の結晶の形がひとつひとつ違うことを教えて、

「せんせいはね、ゆきの けっしょうは かみさまが ひとつずつ だいじに だいじに つくったんだと 思うんだ。みんなも かみさまが ひとりずつ だいじに だいじに つくったから、みんな ちがうんだよ。」

 説明を受けていたのは、書籍販売部のみんなが粛々と仕事をこなしているすぐ脇の、小さなテーブルと椅子が置いてあるミニ会議スペースでした。私は思わず辺りを見回しました。

 止まらない大粒の涙も、思わず動揺してしまった私もものともせず、マサオさんは、どんなに素晴らしいかを語り続け、いつしか私も、そんなマサオさんの情熱に感動してウルウルきてしまいました。

 すっかり視界が涙でつつまれた時、マサオさんは、「また、この本で人を泣かせてしまった」なんて言いました。

 (涙をコレクションされているようで、ちょっと騙された気分です)

 でも、マサオさんだけでなく、研修中に出会った編集部員や販売部員の本を作ることに対する熱い、熱い思いは、しっかりと肌で感じることが出来ました。

 この絵本を読んで、子供のころは、確かにこんな風に考えていたな…とか、現在の幼稚園も私の時代とあまり変わっていないなといった気持ちや、子供には(せめて子供の時は)こんな風に感じてほしいなという願いを持ちました。

 そして、何より、作家さんはもちろんのこと、編集者や販売部のみんなの熱い涙と情熱がこめられていることを知りました。

 表紙をめくると、プレゼント用に宛名欄と卒園のお祝いメッセージが印刷されています。

 いつか卒園する園児に、この絵本を贈り、読んであげることが夢の一つとなりました。

(2012.05.15)

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