講談社100周年記念企画 この1冊!:「TRANSIT No.1美的中国」

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

138冊目

「TRANSIT No.1 美的中国」

 

山崎慶彦
新事業営業部 31歳 男

どうしても続けてほしい雑誌

書籍表紙

「TRANSIT No.1 美的中国」
発行年月日:2008/04/25

「TRANSIT」というトラベルカルチャー誌がある。世界各国に飛んだカメラマンやライターが自由にその旅を表現し、歴史や文化のページとともにその国や地域を一冊に凝縮。地図や、ガイドブックとして使える小冊子なども綴じ込み、180ページ・1800円。ヴィレッジヴァンガードなどでよく売れる、もはや、雑誌というより大人のオモチャって感じだ。三ヵ月に一度、美しい世界を届けてくれている。

 2008年、編集長の加藤さんが白夜書房で作っていた「NEUTRAL」という雑誌を、講談社から編集委託で発行しないかという話がきた。当時、雑誌販売部にいた僕は、担当としてこの雑誌をどうしても世の中に出したかった。ほぼ赤字の試算にもかかわらず、「出したい」という想いを拾ってくれた上層部の方々はさすがである。そうして心機一転誌名を変え、「TRANSIT」として発行された第一号が、この中国特集だった。

 ページを彩る写真の向こうには、自分の知らない美しい光景、そして躍動する人々がいる。そして、そこにはびっくりするような歴史があり文化がある。きっと、見たことのない「美しい世界」が存在しているはず。そんな世界に触れられたらどんなに楽しいだろう。何かを掴めるだろう。そう思ったら止まらない。Fly away! TRANSITは、そうさせてくれる雑誌だ。

 刊行直後のゴールデンウィークに、再撮までしたという表紙の場所へ行ってみた。福建省の山奥で暮らす客家族(はっかぞく)の巨大な土楼群。ひとつの写真が旅の目的になっていた。取材した行程をなぞってみる。同じ人に会ってみる。千差万別の価値観をぶつけ合い、少しずつ調和していく。一週間後、持ち帰ってきたのは、気のいい中国人との思い出と、仕事への情熱。TRANSITは採算ラインにわずかに届かないくらいで売れていた。でも、すぐに異動の内示を受けた。

 それから早四年。今やTRANSITは、書店の旅行誌コーナーで光彩を放っているだけでなく、様々なところで活躍の場を広げている。ただ、発行形態は当初とは変わり、講談社が販売委託のみを受け流通している。つまり、編集・制作・広告・宣伝など、すべての業務とリスクを編集部自身が負っていることになる。この時代、紙の雑誌を出し続けるというのは、半端なことではない。奇跡だ。だから、この雑誌を作り続けているこの小さな編集部を本当に素晴らしいと思う。そして、大きな力になれない自分を情けなく思う。

 当たり前のように、世の中はとんでもないスピードで変わっている。だから、何かに成功するためには、この変化についていくだけでなく、一歩先の変化を起こすことが必要だ。ただ、TRANSITを見ていて、ひとつ変わっちゃいけないことに気づく。それは、続けようとする「強い意志」。そこに読者がいる限り。そして、それを作ろうとする人々がいる限り。こういう雑誌を失わないように、もっと知恵を絞っていかなければならない。

(2012.04.01)

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