講談社100周年記念企画 この1冊!:『少年少女日本万国博ガイドブック』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

135冊目

『少年少女日本万国博ガイドブック』

編者:塩野孝夫 協力:日本万国博協会

三瓶久永
中国事業室 50歳 男

人類の進歩と調和

書籍表紙

『少年少女日本万国博ガイドブック』
編者:塩野孝夫
協力:日本万国博協会
発行年月日:1970/03/15

 ご紹介するのは40年以上も前のガイドブックです。

 当然ですが、本来の役割はとうの昔に終えていますから、今さら読んで役に立つ情報はありません。しかし、当時の記憶に触れることはできます。皆さんにもそんな本が何冊かあるのではないでしょうか。

 日本万国博覧会、いわゆる大阪万博は1970年の3月から9月、私が小学2年生の時に開催されましたが、その年の学校では、当然ながら万博ネタが話題の中心でした。

 薀蓄好きの子供だった私は、級友に披露するネタを探すためと、夏休みに行く予定のガイドブックとして、この本を手に入れたわけですが、数十年を経た表紙を見て思い出す内容は、「月の石」を展示し、大きな話題を呼んだアメリカ館が、建築史上初の「エアドーム構造」であることや、会場内の移動手段であるエキスポ・タクシーが「電気自動車」であることなど、当時の新技術についての記述でした。

 たしかにアメリカ館は、大規模なエアドーム構造建築の元祖でしたし、エキスポ・タクシーは40年後の現在、自動車産業の今後を支えるエコ・カーのはしりなのですから、なるほど万博は「人類の進歩」を象徴するイベントなのだと納得します。

 余談ですが今、仕事で北京に住んでいるのですが、かつては風物詩だった自転車の波は、自動車の渋滞へと景色を変え、そして電動スクーターが車道・歩道を縦横無尽に疾走している様子を見ると、技術の進歩が「人類の進歩」と言えるならば、人類は確実に進歩している事を実感できる街です。

 本論に戻りますが、今回この本を紹介するために読み返してみると、万博のもう一つのテーマ、人類の「調和」についての記述に、ようやく気づきました。

 それは次の一節です。

『3月14日、イスラエルは、いまなおつづく「アラブ戦争」のため、戦費が多いので今回の万国博には、参加できないとことわってきました。』

  これは、アメリカ「アポロ」と当時のソ連「ソユーズ」が月を舞台に繰り広げていた宇宙レースの華やかさと対比して記述された一節で、

『ほんとうの意味の平和な世界がやってくるのは、いつの時代でしょうか。』

 という言葉で結ばれています。

 この本は、総ルビ(すべての漢字にふり仮名をつける)の子供向けガイドブックなのですが、子供たちが興味を持つ情報だけでなく、実は伝えたいメッセージが込められていたのですね(でも、今頃気づいたんじゃ遅すぎますよね)。

 みなさんも子供の頃に読んだ本を読み返すと新しい発見があるかもしれませんよ。

(2012.03.15)

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