講談社100周年記念企画 この1冊!:『BT’63』(上)(下)

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

134冊目

『BT’63』(上)(下)

池井戸潤

吉田俊輔
販売促進部 47歳 男

父と息子、過去と現代が錯綜する感動の傑作!

書籍表紙

『BT’63』(上)(下)
著者:池井戸潤
発行年月日:2006/06/15

 歳をとると涙腺が緩むとよく言われますが、2006年の刊行以来久しぶりに読み直してみて、分かっているはずなのに思わず目頭が熱くなってしまいました。そんな物語です。テーマは父と子、ぐいぐいと引き込まれて上下巻で800頁超の大作もあっという間の読了をお約束します。『地下鉄に乗って』『流星ワゴン』『時生』などの作品がお好きな方には特にお奨めです。

なんて悲しいんだろう。
なんてうれしいんだろう。
これが人生ってやつか。こんなに苦しい思いをして生きていくのが人生ってやつなのかよ。
再びアクセルを踏み込むと、BT21号車は遮蔽物もなく運転席をまともに夕陽に照らされながら走り出した。
それは昭和三十八年九月のことであった。 (本文より)

 精神を病み、職を無くし、妻にも逃げられた主人公はふとしたきっかけから若いころの父親の体験が見えてしまうようになります。実直で真面目な企業戦士だと思い込んでいた亡き父親が本当はどのような人物であったのか。疑問に思った彼は当時の関係者に会い、また古い資料を調べていく中で少しずつ事実が明らかになってきます。そして一層の真実を求めるために、主人公は40年前へのタイムスリップを繰り返すのでした。父が当時勤務していた運送会社の社長やその奔放な娘、BT21号車の一筋縄ではいかない運転手の面々、闇に蠢く犯罪者たち、そして父が愛した女性を交えて当時の事件が徐々に詳らかになっていきます。かつて父親が大切な女性とその幼子を愛し、守り、苦しみながらも人生を精一杯生き抜いてきたことを知り、主人公も自身の再生へ向けた歩みを進めることが出来るのでした。

 カバーイラストにも描かれているようにBTとはボンネットトラックです。この物語ではタイムスリップをするためにBTが大変重要な役割をはたしているのです。

 池井戸さんといえばご自身の経験を活かし銀行を舞台にした多くの小説や、談合の是非を問う『鉄の骨』リコール隠しの闇に挑む『空飛ぶタイヤ』下町工場の高い技術力と職人の誇りを描いた『下町ロケット』実業団スポーツの存続に苦悩する企業の戦いを巡る『ルーズヴェルト・ゲーム』など、数々の経済小説の書き手としての印象を持たれている読者の方が多いと思います。ここでも当時父親が立ち上げようとした運送の新規事業のお話しが伏線に入っていてさすがの感があるのですが、他の作品とはひと味違う小説なのです。昭和三十年代後半、高度成長期の東京に漂う暗部を感じさせながら、様々な登場人物がとても魅力に溢れていて本当に面白く、またホロリと来る作品なのです。ちなみに何故タイトルが『BT’63』であるかは読んでいただければわかります。Tと6の間にある「’」がヒント。

(2012.03.15)

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