127冊目
講談社文庫『封神演義』(上)(中)(下)
講談社文庫『封神演義』
(上)(中)(下)
訳:安能務
発行年月日:(上)1988/11/15 (中)1988/12/15 (下)1989/01/15
映画会社で働いている友人から聞いた話ですが、最近、全体的に洋画よりも邦画のほうが元気がいいそうです。その理由の一つは、若者がより身近なテーマで、感情移入や共感をしやすい邦画を選ぶ傾向にあるからだとか。その真偽はともかく、自分の中高生時代を顧みると、どちらかといえば、映画には感情移入や共感というよりも、いかに非日常の感覚を味わわせてくれるかを求めていたように思います。それは小説に関しても全く同様でした。
特に幼少の頃より、非日常といえば妖怪や怪異などの、怪しいものが好きだったこともあり、そのジャンルの作品を読んでいく中で出会ったのが、この「封神演義」という作品でした。
中国明代の古典を訳したものです。文庫は3分冊で、かなりボリュームがありますが、時間も場所も翌日の予定も忘れて、一気に読み終えたことを覚えています。
物語は、「史記」にもある、殷の紂王が周の武王に倒される話が土台となっていますが、この作品ではそこに神や仙人などが大挙加勢し、入り乱れて戦いを展開していきます。また、特に強い印象を残すのが、登場人物達が持っている「宝貝」と呼ばれる「秘密兵器」の存在です。姿を消せる冠やら、火を吐く鴉が飛び出す壺やら様々なものがあり、想像を掻き立ててくれます。
太公望を筆頭に、何百人(多分)もの人物が登場し、多彩なエピソードが描かれているため、立ち止まって振り返りながら、じっくり読み込むこともできますが、まずは次々と展開する物語の流れに身を任せ、一息に読み進めるのをおすすめしたいです。
などと言っておきながら、自分自身はここしばらく、目の前の日常に追われる日々が続いています。こんな時こそ敢えて何も難しいことを考えずに、非日常の物語にただ身を任せる時間というものを、努めて作るべきではないかと考えています。
(2012.02.15)