125冊目
講談社文庫『ビートルズで英語を学ぼう』
講談社文庫『ビートルズで英語を学ぼう』
著者:林育男
発行年月日:1984/03/15
Beatlesの代表曲の一つ、“Please Please Me”を幼少期に聴いて以来、いつの間にか彼らのファンになっていた。もちろんリアルタイム世代ではなく、後追い世代なのだが。
洋楽好きの通過儀礼であろう。音楽に対する視野が広がったのは彼らのおかげであり、英語アレルギーなるものに冒されることなく、第二言語として英語を読み書きできる道筋をつけてくれたのは、中学一年生のときに手に取った本書のおかげである。
本書は英語初級者向けの内容で、基本5文型から名詞、動詞、形容詞、副詞、接続詞、前置詞など、一通りの英文法を簡略化しながらも網羅。文庫という制約もあり、重厚な英文法の本にはとても敵わないのだが、何せ例文の全てがBeatlesの曲なのだから、ファンにはたまらない。好きこそものの上手なれ、である(ちょっと違うか)。
それはさておき、著者の林育男氏は前書きに次のように記している。
“世の中に英語の苦手な生徒はゴマンといる。しかし,もしきみがそうであっても,ビートルズ・ファンならばもう安心してもいい。ビートルズをこれからも聴いていくことによって,英語が見えてくるようになる。これは絶対に保証していい。” (P.4 2-6行目)
まさに、その通りだった。ちょうどBeatlesを本格的に聴き始めていた中1の私にとって、本書はまさしくバイブルとなった。退屈な授業のときには、立てた教科書の陰に隠して本書のページを開き、例文をとして紹介されている楽曲を脳内再生しながら、その歌詞をノートに書き写して過ごし、さらに洋楽にどっぷりとはまった高校時代には、気に入った楽曲の歌詞を知りたいがために輸入盤より値段の高い国内盤CDを何十枚と購入しては金欠となり、大学で履修していた教職課程の中で行った高校英語の教育実習では、教科書をさっさと切り上げて、カセットテープに編集したBeatlesの楽曲を流して歌詞の穴埋め問題を出し、生徒たちの歓心を得るのと引き換えに指導教官の顰蹙を買ったものだった。それもこれもすべて本書を読んでいたせい、いや、おかげである。
その後、理由あって英語教師の道に進むことはなく、縁あって講談社に入社。本書を手に取ってから二十数年が経った現在の私は、相変わらずBeatlesを聴いている。彼らの楽曲は、2009年に初のデジタル・リマスターがなされた後、2010年にはAppleのiTunes Storeでも配信されるようになり、より手軽に聴くことができるようになった。スゴい時代である。
一方、残念なことに本書は品切れ重版未定。お薦めしようにも在庫がないのである。が、そこは販売部に籍を置いている身。今年(2012年)デビュー50周年を迎え、再び何度目かのBeatles人気に盛り上がる昨今、本書のようなユニークで手頃な英語学習本の需要があるのではないか? 書店においては、文庫売場だけでなく、語学書や音楽関連書の売場でも取り扱ってもらえるのではないか? との仮説のもと、復刊を目指して社内各方面に働きかけたいと思う今日この頃である。紙の本としてはもちろん、(著作権問題やら課題は山積だろうが)電子書籍としても読むことができたら、そんな素敵なことはないじゃない?
(ちなみにカバー装画は和田誠さんによる作。味わいがあります。)
(2012.02.15)