講談社100周年記念企画 この1冊!:『トーベ=ヤンソン全集(4)ムーミン谷の冬』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

121冊目

『トーベ=ヤンソン全集(4)ムーミン谷の冬』

トーベ=ヤンソン

清田則子
ディズニー出版事業局 50代 女

冬のふとんの中での出会い

書籍表紙

『トーベ=ヤンソン全集(4)
ムーミン谷の冬』
著者:トーベ=ヤンソン
発行年月日:1977/01/17

 「どんなことでもじぶんで見つけださなきゃいけないものよ。
 そうして、じぶんひとりで、それをのりこえるんだわ。」
『ムーミン谷の冬』おしゃまさんの言葉

 子どもの頃、本は憧れだった。

 児童文庫はまだほとんどなく、小学5年までお年玉は本だった。その本たちは化粧箱に入っていて、何度も出し入れする間に箱がぼろぼろになってしまう。それでも、端がすり切れた箱に本を戻すと、その日はおしまい、また明日、という気分になる。

 残念なことに、最後のお年玉本・ムーミンシリーズは取っつきづらかった。原作よりかわいくデフォルメされたアニメになじんでいたせいか、陰を多用した線、目つきのあまりよろしくない登場人物(人ではないが)、そっけなく感じられる文章、すべてに違和感があり、読み進められず、放置してしまった。

 当時、毎年1週間は風邪で寝込む習慣があった私は、翌年もきちんと寝込んでいた。熱もそろそろ引いた頃、読む本がなくなり手を出したのが『ムーミン谷の冬』。そして1年前、あれだけ手こずったムーミンの世界にすんなり入れた。病気でやるせない気分になっていたからか、1年で少し大人になったからなのか、それはわからない。

 みんなが松葉をおなかにつめこみ、毛布の下であったかく春の夢を見ている中、一人だけ目が覚めてしまったムーミントロール。おひさまを探したり、今まで出会ったことのないなじみのない人(?)に出会ったり、彼が物語の中で感じる「さみしさ」「せつなさ」というそれまで味わったことのない違和感は、最初にこのシリーズを読んでみたときに感じたもの、そのものだったのだと思う。その感情は確かに知っている。でも、うまく言葉にはできない。『ムーミン谷の冬』を読んだとき、その感情が文字と絵で表現された物が、はじめて自分の中に落ちてきた。一生つきあっていける本を見つけた気がした。

 本は、そうして寄り添ってくれるものになった。

 ただ、はじめて真剣に感情移入した本がこれだったことで、人間以外のものが出てくる本が好き、という傾向になり、いま『もやしもん』とかに夢中の自分を振り返ると……まあ、いいか…。

(2012.02.01)

講談社の本はこちら

講談社BOOK倶楽部 野間清治と創業物語