講談社100周年記念企画 この1冊!:『いのちのふね』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

120冊目

『いのちのふね』

鈴木まもる

前田丘人
書籍第二販売部 30歳 男

「あの日」に出会ったいのちの絵本

書籍表紙

『いのちのふね』
著者:鈴木まもる
発行年月日:2011/09/22

<くらい よるが おわり>
<よが あける すこし まえ
 いのちの ふねは そらのうえから おりて きます>

命を終えて旅立つ人々が、鳥の形をした船に乗って「雲の上の世界」へ向かう。そこでは、生前に病気やケガで苦しんでいた人も心安らかに過ごし、いつかまた赤ん坊、あたらしい命になって、私たちの世界へ帰ってくる……。

 私が初めて絵本『いのちのふね』(鈴木まもる・著)のラフを見たのは、3月11日の午前中のことでした。

「ちょっと、見てもらいたい作品があるんだけれど……」

「あ、すぐに行きます」

 編集者からの電話を取った私は、取るものもとりあえず、高層棟にある絵本の編集部へ向かいました。編集者から販売担当が企画の相談を受けるのは日常業務のひとつ。だから特に気構えることもありません。

「難しいテーマだけど、やってみたいと思うんだよね」

 差し出されたラフには、冒頭のような輪廻転生の世界が、鉛筆書きで描かれていました。「すばらしい作品ですね、ぜひやってください!」何の躊躇もなく言ったのを覚えています。

 その数時間後に発生した『東日本大震災』──。

 押し寄せる黒い津波、逃げまどう人々、立ち上る煙と壊されていく東北の街並み。テレビで流れていたのは、この世のすべての苦しみを凝縮したかのような光景でした。失われたのは2万人以上の命…、戦慄を覚えました。

「こんなに多くの人が亡くなった後に、生き死にを扱った絵本を出すのは難しいかもしれない」

 販売担当として、あの日見た鉛筆書きのラフを絵本として出版することに、不安がなかったといえばウソになります。ですが、編集部と著者の鈴木さんが何度もやり取りと熟考を重ねてくださり、『いのちのふね』は、9月に店頭に並ぶこととなりました。

 できあがった絵本を読んでみて、私はある見開きで目が釘付けになりました。いのちのふねに乗って雲の世界に行った女性が、ブランコの上から手を振っている場面──私はその人の顔が、2年前に亡くなった祖母とダブってしまいます。思わず、生前の祖母のことを思い、胸が熱くなりました。生きとし生けるものが、その命を終えた後に 安らかな世界に行き、またこの世に生まれてくるのだとしたら、どんなに素晴らしいことだろう。

 小社にも、多くの人々から反響が寄せられています。

 20代の娘さんを亡くされた女性からは、

「娘の大好きなブルー、そして大好きな小鳥。胸がふるえる絵本です。娘に出会えた絵本です」。

 生まれてすぐに赤ちゃんを亡くされたお母様からは、

「希望と命の尊さ、残された者への愛が描かれた絵本だと思います」……。

 いのちは巡り、またつながっていく。『いのちのふね』に込められたメッセージを感じてくれて、希望を抱いてくれる読者がいる。本に関わるものとして、こんなにありがたいことはありません。

 2011年は『東日本大震災』が起きた年。そのことは将来にわたって記憶されるでしょう。ですがそんな年に出版された『いのちのふね』は、多くの“残された人々”の心を癒し、希望をうたいつづける。そうなることを、心から願っています。

(2012.01.13)

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