講談社100周年記念企画 この1冊!:『まぼろしの邪馬台国』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

119冊目

『まぼろしの邪馬台国』

宮崎康平

小塚昌弘
資料センター 53歳 男

邪馬台国ブームに火をつけた1冊!

書籍表紙

『まぼろしの邪馬台国』
著者:宮崎康平
発行年月日:1967/01/24

「邪馬台国」といえば、日本古代史上最大の謎とされ、大和説と九州説が対立して学会だけでなく、アマチュアの古代史マニアも巻き込んで熱い論争が繰り返されてきました(最近では考古学上の知見から大和説が有力視されているようですが)。

 昭和42年(1967)のベストセラー第5位にランキングされたこの本は、まさにアマチュアが邪馬台国論争に参加するきっかけをつくったといえるものです。

 平成20年(2008)年、竹中直人、吉永小百合主演で映画化されたのは記憶に新しいところです。

 この本は邪馬台国という魅力的な謎に加えて、著者のキャラクターが立ってます。

 宮崎康平氏は、大正6(1917)年5月7日、長崎県生まれ。本名は一章。早稲田大学文学部卒業後、東宝文芸課に入るも兄の戦死により帰郷。父の事業をつぎ南旺土木社長、島原鉄道代表取締役に就くが、激務のため眼底網膜炎が悪化し、昭和24年失明。この間、前妻が二人の子どもを残して出奔し、その経験から『島原の子守唄』を作詞作曲、レコード化される。その後再婚した和子夫人の助力を得て古代史の研究に没頭し、『九州文学』に「まぼろしの邪馬台国」を連載。昭和42年単行本『まぼろしの邪馬台国』を刊行、夫妻で第1回吉川英治文化賞を受賞。昭和55(1980)年3月16日死去。62歳。

 どうです、この略伝を読んだだけでも惹きつけられませんか。

 私がこの本を読んだのは小学校5年生くらいのとき。父が購入してあったものに目をとおしたのですが、当時は細かいところはよくわかりませんでした。ただ目が見えないのにすごいことをする人がいるものだと驚いたのを覚えています。また邪馬台国問題を初めて認識したのもこの本でした。

 学者の先生が書いた入門書ではありませんが、歴史を読み解く面白さの一端を知ることができ、これ以降、歴史や考古学の本を集中的に読み出しました。また学生時代は貝塚や古墳など遺跡の発掘作業も経験しました。いわば私の「歴史マニア化」を促進した1冊です。

 さて、失明というハンディキャップを負ってしまった宮崎氏の研究方法は、そのハンディを逆手にとり、『魏志倭人伝』『古事記』『日本書紀』などの文献を和子夫人に朗読してもらって徹底的に読み込み、文字の表記に影響されずに音韻から『魏志倭人伝』に記された国々の所在地を推定していくというもの。

 また手で触って地形がわかる立体地図を作成し、和子夫人に手を引かれて九州各地を文字どおり「踏査」していきます。

 そして邪馬台国九州説に立つ宮崎氏が、北部九州から「伊都国」「奴国」「不弥国」など邪馬台国傘下の国々を次々と比定していき、最後にたどりついた邪馬台国の候補地とは……。

 本書に述べられた見解は最新の考古学、歴史学上の知見と矛盾するものもありますが、単なる謎解きにとどまらず、戦中・戦後を生きぬいた一人の人間の(あるいは一組の夫婦の)記録として今なお読まれるべき価値があるといえます。

[印象的だった一節]

「目が見えないから、かえっていいのです。あなたがたは目が見えているので、よけいなことまで見ている。」(講談社文庫『新装版 まぼろしの邪馬台国』第1部白い杖の視点 P83)

(2012.01.13)

講談社の本はこちら

講談社BOOK倶楽部 野間清治と創業物語