講談社100周年記念企画 この1冊!:学術文庫『論文の書き方』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

111冊目

学術文庫『論文の書き方』

澤田昭夫

加賀彩恵子
主計部 27歳 女

論文・プレゼン、「生みの苦しみ」にこの一冊!

書籍表紙

学術文庫
『論文の書き方』
著者:澤田昭夫
発行年月日:1977/06/10

『論文の書き方』は、大学へ入ったばかりの頃、歴史の先生が「論文を書くならまずこの一冊」と教えてくださったものです。その先生は、物事の成り立ちを説明する仕方がとてもエレガントで、構造的な説明の上手な人に弱い私は、最初の授業でもうポーッとなってしまいました。売店でさっそく買い求めた本書は、1977年の初版当時は著者の言うように「…低俗な実用中心のハウ・トゥーもの」であったのかもしれませんが、今となってはどちらかというとちょっぴりとっつきにくい雰囲気で、資料収集や管理についても今はパソコンを使った方法などがあるだろうし、この本でなくてはならないのかしら、と半信半疑ではありましたが、とにかくその先生に全面降伏していた私は、とりあえずこの本をそばに置いておきました。

 そして実際に、このたった一冊の本が、多くの局面で私を助けてくれました。特に「第六章 書く―アウトラインの発展、文章化、下書き」は、情緒的に書き流す作文スタイルを脱し、トピック・センテンスを積み重ねる論文の書き方を身につけるのに有効でした。資料収集や管理の方法に関しては、他のやり方もあるでしょうが、歴史家である著者は、一次資料にあたることの重要性や、分析概念自体が必ず歴史的背景を伴っていることを説いていて、それは具体的な方法よりもはるかに大切なことでした。この本は、論文の書き方についての実用的な解説であると同時に、物事を論理的に考えるための基本姿勢に関する指南書でもあるのです。

 また何よりも、文章の中に感じられる、背すじの伸びるような研究者の存在が、焦りと孤独に苛まれる一学生を、ずいぶん励ましてくれました。テーマ選びで路頭に迷った私は、生まれたてのヒツジのようによろよろとした問題意識と、カウントダウンしたほうがしっくりくる量の時間しか持っていませんでした。それでもなんとか卒業のために論文らしきものを捻り出さなければならないとなると、ときおり、猛吹雪の中に立ち尽くしているように感じられたものでした。そういう時、パラグラフ・ライティングのお手本のような文章が、少々あきれ顔ながら、ぽんと肩を叩いて教えてくれます。「…つぎのしごとは資料探しです。…このしごとはかなり手っとりばやくやらなければならない。」その言葉で吹雪は一瞬途切れ、私は自分のいる場所を確認することができ、見えた気がした目的地に向かって、またえっちらおっちらと歩き出すことができたのです。

 本書の後半では、小論文のまとめ方についても書かれていますし、「書く」「読む」「話す」「聞く」は同じひとつの活動だという著者の考えから、読み方、話し方、聞き方についても触れられています。学生に限らず、何かまとまった考察をして発表しなければならないという時におすすめです。ちなみに、私の卒業論文執筆時の伴走本はもう一冊あって、『遠い太鼓』(村上春樹著・講談社文庫・1993年。別の社員からの紹介記事があるのでご覧ください!)がそうなのですが、これがどのように私の論文執筆を支えてくれたかについては、またの機会に。とりあえず、卒論に悩む学生の方は、ものは試し、この二冊を売店でお求めになってみてください。

(2011.12.15)

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