110冊目
青い鳥文庫『クレヨン王国 黒の銀行』
青い鳥文庫
『クレヨン王国 黒の銀行』
作:福永令三
絵:三木由記子
発行年月日:1988/12/10
冒険ものが好きです。
山奥のひいおじいちゃんを訪ねるはずが、銀行強盗に車をのっとられ、女の子ふたりが奮闘する『クレヨン王国 黒の銀行』は、小学生のころ大好きになった本です。
南国の小学校で、昼休みも放課後も汗だくになって遊んで、最後にクーラーのきいた図書館で読書、というのが夢コースでした。これは、その図書館で初めて「もう1回」借りた本です。
元気な中学生美穂と、おしとやかそうで男気のある銀行員・彰子ちゃんのコンビは、サスペンス映画のような展開にもめげません。漫才的なやりとりをくりかえしながら、なんとかおじいちゃんの家へたどり着こうとします。
何にひかれたんだっけと思い返すと、まずは美穂と彰子ちゃんのかけあいです。
車をうばわれ、呆然としていたふたりが、まず口にするのは、食べ物のうらみです。
車ごと、おじいちゃんへのおみやげの品々も盗られたのだと気づいて、がぜん発奮するのです。
松阪牛の霜降りロースにとら屋のようかん、フルーツボンボン、カモのオレンジ煮、ムール貝のグラタン、タンシチュー…。
ふたりの合言葉のように繰り返される、おいしそうな(でも食べたことのない)食べ物の名まえを追ううち、自分まで強盗たちがにくらしく思えてきたものです。大変ヘビーな状況なのに、ふたりの怒りの表現は、どこか頓狂でくすっとさせられました。くりかえし読んだのも、そのかけあいが読みたかったからです。
もう1つは、黒の銀行。
山道にうちすてられたふたりが、トンネルで見つけた一枚のカード。水面にうかんでくる鯉のようなさざなみの立つカードに指をちかづけると、なんと銀行のカウンターがあらわれます。ふたりがひろったのは、この世の黒いものを預かる、「黒の銀行」のカードだったのです。残高は「100ブラック」。それをつかって、強盗コンビへの反撃がはじまります。
自然界のもの、黒限定。ということで、ふたりが引き出すのが…
黒い馬×15分(40ブラック)、アリ(3ブラック)、ホタル(5ブラック)、クワガタ(3ブラック)、雷雲(15ブラック)…そして「黒の原液100cc」(5ブラック)。
残りは29ブラック、ということになるのですが、この後ふたりが「どうしても」必要になるものが、30ブラックの値打ちでした。さて、足りない1ブラックを、どうするか。
ここで美穂がとった行動に、前のめりになりました。
ヒントは、上に挙げた「今まで引き出したもの」。
「黒」という厳しい制限があるようで、予想もしなかったことができてしまう「黒の銀行」の設定が、私はとても気に入りました。
あらためて読み返しても、すてきなせりふとキャラクターに、思わず嫉妬していました。
「なかよし」でも、そんな作品をつくれたらと思っています。ぜひ、ご一読ください。
(2011.12.15)