108冊目
講談社文庫『ガール』
講談社文庫
『ガール』
著者:奥田英朗
発行年月日:2009/01/15
小見出しにある台詞は、帯に書かれていた文字ですが、読み終わった後の感想はまさにこんな感じでした。リアルな心情表現にページをめくる手が止まらず、そのリアルさは、「作者の奥田さんは、もしかしたら女性なのでは……。」と疑ってしまうほどでした。
少女漫画の編集という仕事柄、主に十代の女の子の気持ちを考えることが多いのですが、たまには世代の近い女性たちの話で気分転換を…と思い手に取ったのが、この本と出会ったきっかけです。
本書は働く女性を主人公とした5つの短編集です。どの女性も共感する部分があったのですが、中でも「ワーキング・マザー」に出てくるバツイチ子持ちの孝子が印象的でした。本編の中で、孝子が子供にお手本を見せるために必死で逆上がりの練習をするエピソードがあります。孝子の職場のライバル・里佳子の言葉にもありますが、お子さんを育てている女性は、それだけで尊敬してしまうし、自分のことで精一杯な自分よりも、ずっと大人なイメージを私自身も持っていました。しかし、孝子が、自分の子供の前で面子をつぶすわけにはいかないぞ、とひそかに逆上がりの練習に励む姿は、これまで持っていたお母さんのイメージとは少し違い、子供のためもありますが、理想の母親、延いては理想の女性を目指し、自分のためにも頑張っているように思え、その姿に親近感を覚えました。
表題の「ガール」には、いつまでもガールのつもりでよいのだろうかと悩む、由紀子という女性が出てきます。その由紀子が、最後に吹っ切れたようにこう放ちます。
『女は男の目なんて気にしていない。自分が楽しいからおしゃれをするのだ。若くいたいと思うのだ。』
このセリフがとっても好きです。ガールであろうとすること自体が、誰かに迷惑をかけるわけではありません。周囲の視線に振り回されずに、ガールであることを、とことん楽しもうという、ガールの強さを感じます。
シングルマザーの孝子も、独身でガールのままでいいのか悩む由紀子も、自分の理想の姿に向かって一生懸命な姿は、立場は違えど一緒であるように感じます。また、仕事も子育ても、お洒落も恋も、全部成功させたい、そんな女性たちの姿は、好きな男の子に振り向いて欲しくてアピールしたり、つい嫉妬してしまったりする女子高生にも共通しているように思いました。こんな欲張りなところが“ガール”ってものなのかもしれません。
少女漫画部署に所属しながら、恥ずかしながら、過去にあまり少女漫画に触れて来ず、また20代後半の私に女子高生の気持ちがわかるのだろうかと不安に思うこともあったけれど、働く女性も女子高生も、同じ“ガール”。学生も、OLも、主婦もお婆さんも、少女時代を通ってきている女性は皆、潜在的に少女的感性を持っている、そう思うと、少女漫画の編集というのは、すごく大きな仕事をしているように思えました。仕事を通じて、子供から大人まで、世の女性をもっともっと応援したい、そう思うようになりました。
本書に出てくるような、世代は違えど、また歳を重ねるごとに確かに成長しているのだけれど、ガールの心を持ち続ける女性たちを誇りに思います。全ての世代の“ガール”たちを元気づけられるような、そんな漫画を創り出していきたい、そう思わせてくれたこの本に感謝です。
(2011.12.01)