講談社100周年記念企画 この1冊!:『新訂 剣道読本』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

107冊目

『新訂 剣道読本』

野間恒

赤岩一郎
販売促進部 37歳 男

読むたびに新たな発見、私のバイブル

書籍表紙

『新訂 剣道読本』
著者:野間恒
発行年月日:1976/09/24

 私のおすすめは『新訂 剣道読本』です。私とこの本との出会いは20年ほど前の高校時代になります。当時(今も?)、坊主頭の剣道部員だった私は、剣道雑誌で戦前の講談社野間道場を舞台にした連載を目にしました。剣道の先生に聞いてみると、講談社には、今も野間道場があり、毎日朝稽古を行っているとのこと。将来について漠然と教師か、会社員になるなら出版社に入りたい、また剣道も続けていきたいと考えていた私にとって、それまで「フライデー」や「週マガ」を出している会社だった講談社は、剣道ができる出版社として、その日から日本でいちばん魅力的な会社に思えてきたのでした。その後、剣道雑誌の連載を読み進めるうちに講談社から『新訂 剣道読本』という本が出ていることを知り、書店で探すものの見つからず、初めて見つけたのは町の図書館でした。(それもそのはず、この数年前に絶版になっていました)

『新訂 剣道読本』は昭和14年刊行の『剣道読本』の新訂版として昭和51年に出版されました。著者は野間恒。小社二代目社長にして剣道天覧試合優勝者です。恒は父で剣道の熱烈な愛好家であった初代社長野間清治の勧めにより剣道を始め、高野佐三郎・中山博道・持田盛二といった当代随一の剣道家の指導のもと、めきめきと上達し、昭和9年の天覧試合で25歳にして優勝を果たします。残念なことに昭和13年病のため、29歳の若さでこの世を去りますが、翌年遺稿を集めた『剣道読本』が刊行されました。

 この中で恒は、剣道の修行の目的や稽古法、あるいは勝負について、『孫子』など中国古典から塚原卜伝・『五輪書』の宮本武蔵・山岡鉄舟などの剣豪、さらには文人谷崎潤一郎にいたるまで、多くの引用や逸話を交えて自身の考えを述べています。これほど多くの経験・知識・教養を20代のうちに身につけていたことには、その年をとうに過ぎている私は脱帽するしかありませんが、細部の技術に話が行きがちな最近の剣道の本に比べ、武術的色合いが強く、剣道の本質に迫る内容であり、またその骨太の剣道観は、現代の競技化され過ぎた剣道と比べ、逆に新鮮ささえ感じさせます。

 最初に触れた高校時代、図書館で初めて読んだときには、この本をやっと見つけたという喜びの記憶しかなく、おそらく内容のほとんどが理解できていなかったと思います。数年後の大学時代、高田馬場の古本屋で見つけて購入し、自分の蔵書とすることができたときは、批評的に斜に構え、わかったつもりで読んでいた気がします。講談社に入社してからも度々手に取り読んでいましたが、正直なところ、ようやく真剣に読んだのは、私自身が剣道の六段審査に落ち続け、挫折しかけていたときでした。改めて読み直すと、剣道で最も大切な「基礎」・守破離の「守」・精神面では「先」の重要性を再認識させてくれました。そして新たな発見もありました。著者の剣道への深い愛情と熱い思いです。

『新訂 剣道読本』の教えのなかには、現代剣道の指導書と異なる点もありますが、講談社野間道場で剣道をする者として、これからも私の剣道のバイブルとしていきたいと思います。今後も剣道に励み、日々の稽古や本書から学んだことを会社での仕事や実社会に役立てていきたいと思います。

 来年度(2012年度)からは、中学校での武道履修が必修となります。剣道の面白さや奥深さをより多くの人が経験できる良い機会だと思っています。『新訂 剣道読本』は剣道を指導する人、剣道を志す多くの人に繰り返し読んでいただきたい本です。

 復刊したいなぁ。

(2011.12.01)

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