講談社100周年記念企画 この1冊!:フレンドKC『聖ロザリンド』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

99冊目

フレンドKC『聖 ロザリンド』

わたなべ雅子

岸本憲治
ARIA編集部 49歳 男

頭をガツンとされた感じの1冊

書籍表紙

フレンドKC『聖 ロザリンド』
著者:わたなべ雅子
発行年月日:1974/08/08

 もう、かれこれ27年も前のことになる。新入社員で「少女フレンド」という雑誌の編集部に配属された私は、当時かなりあせっていた。男兄弟なので身近に少女漫画があるわけもなく、女の子向きの漫画など数えるほどしか読んだことがない。そんな自分が編集者として、少女漫画家の先生たちとどうやってお付き合いしていけばよいのか? そもそも先生たちって、みんなベレー帽をかぶってたりするのか?

 わけもわからないながらも仕事をしていった結果、おぼろげながら少女漫画とは「明るく、前向きで、ラブがある」ものだというイメージができあがった。たとえ試練が訪れようとも、最終的には「明るく、前向きで、ラブがある」。

 なんとなく、そういうものが少女漫画だと確信しはじめていた。

 とある深夜、編集部にも人がいなくなり、ちょっと気分転換になる漫画を書庫でさがしていたとき、目にとまったのが『聖ロザリンド』。

 善悪の意識を持たずに生まれ育った少女ロザリンドが、かかわりにあった人々を、つぎつぎと殺めていく。それも身も凍るような恐ろしい手口で……。

 あわれなのは、彼女は悪いことをしているとはつゆほども思っていないことだ。遠くへいってしまった母親(実は、ロザリンドが原因で死んでしまっている)にひと目会いたいだけの、純粋でおさない行動が、惨劇の連鎖を引き起こしていくのだ。

 最後には、すべてを知った父が、ロザリンドを連れ吹雪のアルプスへ連れていく。エンディングは、つらく、切なく、深夜勤務の疲れた心に突き刺さった。

 

「すごく怖い。そして全然『明るく、前向きで、ラブ』じゃない! というか真逆じゃないか!!」と、少女漫画をわかった気でいた頭が大混乱した。同時に、こんな少女漫画もあるんだと、その懐の深さに感動した。

 それ以降、いろんなタイプの少女漫画を意識して読むようになった。

 特に読んだのは『聖ロザリンド』の影響か、ホラー・サスペンス系。読んでいくうちに、女子を「キュン」とした気分にさせるのと同じように、いやそれ以上に女子に恐怖を感じさせることに興味を持った。自分でそんな作品に関わりたくなり、ホラーの増刊なども作ってしまった。

 入社以来、私はずーっと少女漫画にたずさわり、いまでもなんとかやっている。きっと、深夜に『聖ロザリンド』に出会わず「明るく、前向きで、ラブがある」作品だけにしか頭がいかなかったら、こんなに長い間やっていけなかっただろう。少女漫画の多彩さ、奥行きを教えてくれたこの作品に、いまも感謝している。

(2011.11.01)

講談社の本はこちら

講談社BOOK倶楽部 野間清治と創業物語