90冊目
選書メチエ『名作英文学を読み直す』
選書メチエ
『名作英文学を読み直す』
著者:山本史郎
発行年月日:2011/02/10
大学では文学部史学科で西洋史を専攻していました。歴史という言葉には、往々にしてロマンチックでドラマチックなイメージが含まれます。しかし、研究対象としての歴史は、記録として残っている史実が、必ずしも事実でないことが前提になっています。恣意的に記された文献、しかも劇的な表現を多く含んだものは、フィクションがちりばめられたノンフィクションといったところ。史学科の授業は、そういった文献を前に、時代背景や記された経緯を考察し、過去の出来事の実態を明らかにしようという非常に現実的な作業が中心でした。題材が極端な思想や不穏な密書であっても、フェアでクールに臨むところがなかなかかっこいいなと思っていました。今思えば、史学科の研究会には(ドリーミングなヲタクではなく)幸せなナルシストが多かったような気がします。
社会人になって、日本語以外で書かれた文章を読むことなどなくなり、30代も半ばにさしかかった頃、集中力・記憶力の急激な衰えを自覚するようになりました。何種類もの辞書を駆使するようなアカデミックな読書はちょっと続けられそうにないけれども、脳と精神のために、日常“勉強している気分になれる本”を手元に置いておくのは重要かもしれないと思い立ち、約10年ぶりに外国語(=語学力の問題で英語に限定される)の本を手に取ることに。ContemporaryとClassicsなら、古典のほうが大まかな流れを知っている話があるんじゃないかという理由で名作英文学を読み始めたのが(原典ではありません、ペンギンの本です。語学力の問題で!)数年前になります。
何冊か読み終えて「日本語に訳したからといって内容が理解できるわけではない。古典文学はノンフィクションが根底に流れているフィクションなんだな」と考えるようになりました。海外文学ゆえ、風習や宗教観が違うのは当然。さらに、歴史的要素の影響を「象徴的に」読まなくては「解釈の許容範囲が狭まっていかない」ことを、この『名作英文学を読み直す』を読んで再確認しました。結果、関連書籍を探したり、映画を観たりする羽目になっています。英文学を読む=気になることを放っておかない&暗号を解読するワクワク感を楽しむという予想外のアンチエイジング法でした。なにより、英文学は読んでみると新鮮で(←イメージが変わるから)反復だけで済むようなお手軽な脳トレ等よりも、はるかに脳が活性化される気がするのですが、語学力の向上の面では、とりあえず、動詞の過去形が覚えられます……。
(2011.10.01)