講談社100周年記念企画 この1冊!:講談社文庫『ビートルズ海賊盤事典』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

89冊目

講談社文庫『ビートルズ海賊盤事典』

松本常男

小佐野文雄
少年ライバル編集部 49歳 男

何もかもが…規格外!!

書籍表紙

講談社文庫
『ビートルズ海賊盤事典』
著者:松本常男
発行年月日:1985/10/08

 1976年1月3日。中学生の私は、おばあちゃんにもらったお年玉を握りしめ、新宿の輸入レコード屋「Sレコード」に向かっていました。大好きなTHE BEATLESのレコードを買うためです。それも、今回は特別なレコードを狙っています。それは、「YELLOW MATTER CUSTARD」というタイトルで、一般のレコード屋さんでは見かけないアルバムです。今まで、聞いたことのない曲目がずらりと並んでいて、どうしても、どうしても聞いてみたかったのです。つ、つついに手に入れたぞ!一目散に家へと戻ります。

「ぷぎゃーーー!! なんじゃーこのレコードは!ああん?」をレコードに針を落とすや否や、私は悲痛な声をあげざるえませんでした。

 そのレコードは、レコード盤自体が、なんだかうねっており、最初から嫌な予感はしてはいました。ボコボコ、もこもことした音しか聞こえない…。何か遠くでジョンやポールの声がするけどノイズだらけで聞けたもんじゃない! 騙されたんだ。はめられたんだ。どうしよう、もう駄目だ。せっかくおばあちゃんからもらったお年玉をこんなものに使ってしまったなんて、私はなんてバカなんだ! 死にたい、もう死にたい。

 返品をお願いしに行ったら、お店のおばちゃんに「ダメよ。海賊盤なんだから。聞きづらいのは当たり前じゃない……」「か、海賊盤???」

『ビートルズ海賊盤事典』。もしこの本が70年代に出ていたら、海賊盤の存在を知らぬ私の悲劇は生まれなかったでしょう。何故なら、松本常男氏のこの労作には約400点に上るTHE BEATLESの海賊盤がすべて詳細に網羅されているのですから! 総ページ数864頁。文庫なのに当時の定価で2400円!

 講談社に入社したばかりの私は、早速社内の売店で購入。その完璧な出来に感服しました。そして、こうも思いました。版権物を取り扱う会社なのに、オフィシャルでないレコードの紹介本を出すなんて、なんてロックなんだろう!入社出来て、本当に良かった! この本のように講談社の規格外のモンスター作品を私も作ってみたいと思ったのです。

 やがて、時代はCDの時代となり衝撃的なTHE BEATLESのの未発表音源が次々と発掘され 海賊盤の世界は新たな世界へと突入しました。しかし、この本は、いまだ色あせていません。どこまでも深いTHE BEATLESの世界を研究するために欠かせぬ資料本なのです。

 是非、再版を!

(2011.10.01)

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