講談社100周年記念企画 この1冊!:『イキルキス』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

81冊目

『イキルキス』

舞城王太郎

安藤千秋
FRIDAY編集部 25歳 男

「これが“ムチャぶり”か」鍛えられた一冊

書籍表紙

『イキルキス』
著者:舞城王太郎
発行年月日:2010/8/18

(ムチャ言ってんじゃねーよっ!)

 これが、はじめに話を聞いた時の偽らざる感想でした。
 新入社員として前部署である『業務部』に配属されて1年、書籍・雑誌・コミックの製作をまがりなりにも一通りこなした(と思っていた)私のもとに、1冊の書籍の装丁案が届きました。それが、とんでもないオーダーだったのです。
「カバーにも帯にも穴を開けて、表紙の模様と絵合わせして、見返しにもハート型の穴を……。カバーにはきらきらした紙を使いたいけど強度が心配だからPP(注1)も貼って、印刷は銀と蛍光の赤(注2)。あ、穴は舞城(MAIJO)先生の『O』の字になってるから、位置がずれすぎると意味がなくなるから気をつけてね」

 全く枠にとらわれないデザイナーの方の要望はまさに夢物語。それでも、(定価を高めの1700円ぐらいに設定すればなんとかなるか)と考えていた私に担当編集者が伝えてきた希望定価は1400円(税別)、思わず苦笑いしてしまいました。ここから、想定原価を計算した上で、実現可能なところまで印刷会社・製本会社などと摺り合わせながら本を作っていくのが業務の仕事。デザイナーの方(を代弁する編集者)とのやり取りをしつつ、実際に作業をすることは可能なのか、印刷会社・製本会社・型抜きをしてくれる加工会社の各営業担当者の方々と、打合せや価格交渉を重ね、“夢”を現実のものとすべく進行していきました。

「きらきらした紙にPPを貼ったら効果が薄れますから、紙の裏側にPPを貼ることで強度を出しましょう。また、見返しに穴を開けるのは作業行程上厳しいようです」
「一面に蛍光色を印刷すると本同士がこすれた時に色移りしやすくなってしまうので、インク止めを塗りましょう」

 型抜き・製本のテストを繰り返しながら作業の可否を確認し、その一方で販売部や宣伝部などとも定価の相談を繰り返し、結局定価は1500円(税別)に落ち着くことになりました。

 と、いろいろな工夫(苦労?)を重ねて完成したこの本は、3編の短編集です。舞城さんらしい、奇想天外な設定と独特な言葉選びでぶっ飛んだ表現をしながら、「青春」・「暴力」・「家族」といった人間の本質ともいえるべき事柄をいきいきと描き出している3編の物語は、銀と蛍光の赤に彩られたこれまた“ぶっ飛んだ”装丁に負けないパワーを持っています。

 本というものは、作家と編集者が作り上げた世界を読者に読んでもらうもの。その大命題を前提として、その世界観をもっと伝えるために、その本を手にとってもらうために、もっと楽しんでもらうために、我々にできることはもっとあるんだと実感できた、とても鍛えられた“ムチャぶり”となりました。

(注1)紙が簡単に破れてしまわないように貼るポリプロピレン製のフィルム。強度を出す目的の他、インクのこすれも防止する効果がある。
(注2)銀のインクと蛍光色のインクは、一般的に乾きづらくさらに高価。インク止めとして、ニスを塗ったりフィルムを貼ったりして対応

(2011.09.01)

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