80冊目
講談社文庫『雪の断章』
講談社文庫
『雪の断章』
著者:佐々木丸美
発行年月日:1983/12/15
「私の人生にはドラマがない」
中学時代、悶々と悩んでいた。
ドラマを求めて……かどうかわからないが、他に大した娯楽もなく、書店に通うのがささやかな楽しみだった。
そのくせ生来ものぐさで、分厚い本を避けてきたが、その日にかぎって400ページ超の文庫本に吸い寄せられるように手をのばし、背表紙のあらすじを一読、迷わず購入。それが『雪の断章』だった。
「孤児院」で育った少女・飛鳥は、街で出会った青年にふとしたことから引き取られる。そこに青年の親友、美しい隣人女性、飛鳥の親友、おせっかいな家政婦さんが加わり、ある企業の内紛に端を発した殺人事件もからんでくる。飛鳥の運命やいかに。恩人である青年との行く末は。
生い立ちの秘密(私にはない)、運命の出会い(あるわけない)、『雪の断章』は、少女漫画好きな女子中学生のヒロイン願望にガチッとはまる作品だった。
平穏すぎる毎日から自力で抜け出すにはあまりにも無力な中学生にとって、飛鳥の「不幸」は輝くばかりに感じられ、佐々木丸美氏の詩的な文章に酔うことが、できうる限りの現実逃避だった。家族からの迫害(本ばっか読んでないで少しは勉強したらどうだ)がさらに拍車をかけ(逆境にめげない私ってなんて健気なの)、しばらくのあいだ、一人『雪の断章』ごっこは続いた。
あれから20年。変わらず平穏に暮らしているが、決定的に違うのは、人生にドラマは、まぁなくてもいいかな〜、と思うようになったこと。
じゃあ、あの日々は一体何だったのか。よくわからぬ病に冒されていたとしか思えない。その病の正体は、なんとなく見当はつくものの、直視したら恥ずかしさで気絶しそう。これをもって封印することにしよう。
(2011.08.01)