講談社100周年記念企画 この1冊!:X文庫『ママがいろいろうるさいの』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

79冊目

X文庫『ママがいろいろうるさいの』

著:小林深雪 絵:牧村久実

栗田晃宏
ラノベ文庫出版部 30歳 男

圧倒的な読みやすさ!

書籍表紙

X文庫
『ママがいろいろうるさいの』
著:小林深雪 絵:牧村久実
発行年月日:1991/01/05

 読書好きな子どもにありがちなことに、小学校時代は児童文学全集や「ルパン」シリーズ、青い鳥文庫などなど、親に買ってもらった本、学校の図書室から、学級文庫から、お気に入りの本を求めて読みふけっていた。休み時間は外で遊ぶよりも図書室に行くという由緒正しい文学少年だったように思う。

 めぼしい本を読み切った後に手を出したのは、親の蔵書だった。『青年は荒野をめざす』や『どさんこ大将』、『吉里吉里人』、『九月の空』、理解できていたとはとてもいえないが、「大人の本」を読み解いていくのは、とても楽しいものだったと記憶している。

 そんな小学校生活も終わりに近い6年生の時、近所に住んでいた従姉妹の部屋で見つけたのが、この『ママがいろいろうるさいの』というカバーがピンクでマンガ絵が表紙になっている、ばりばりの恋愛小説だった。

 突然親にお見合いを強要された主人公が逃げ出した先で運命の男の子に出会い一目惚れをし、すったもんだの末に結ばれる。甘い綿菓子のようなストーリーを短い文章で詩的に表現する、まさに少女小説の王道のような作品は、30分ほどで読み終わった。「こんなに読みやすい本があったのか!」という驚きともに。

 その後、従姉妹が集めていた小林深雪さんのX文庫のシリーズを読みあさり、そして当時隆盛が始まっていたライトノベル作品に手を出し始め、今に至るのである。

 もしあのときこの本と出会っていなければ、おそらく今この仕事はしていないであろうという意味で、私にとってこの作品は、運命を変えた一冊である。

(2011.08.01)

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