講談社100周年記念企画 この1冊!:吉川英治歴史時代文庫『宮本武蔵』

講談社100周年記念企画「この1冊!」

 

72冊目

吉川英治歴史時代文庫『宮本武蔵』

吉川英治

井村達朗
コミック販売部 23歳 男

これを読む、人生に涙する。

書籍表紙

吉川英治歴史時代文庫
『宮本武蔵』(1)〜(8)
著者:吉川英治
発行年月日:1989/11/11〜1990/01/11

 私の持っている講談社の吉川英治歴史時代文庫の『宮本武蔵』第二巻の帯にはでかでかとこの言葉がつづられています。

 写真をご覧の通り、学生時代はラグビーに明け暮れ、日々大男たちと戦う毎日を送ってきました。ラグビーをしていない時は学校も行かずに寝ているか、マンガを読んでいるか、遊んでいるか、女の子にどうやったらモテるだろうかということばかり考えていて、本当に読書とは縁遠い生活でした。おそらく講談社の社員の中でもトップクラスに本を読んでいない方だと思います。え? なんで入社できたかって? うーん、なんででしょう。私もわかりません。

 この『宮本武蔵』に初めて出会ったのは私が小学生の時で、ちょうど『バガボンド』の連載が始まり、この本に注目が集まっていました。父と兄が買ってきたこの本を見て、少年井村達朗は「へぇ、バガボンドって原作があるのかぁ。ふーん、よし、友達んちにゲームしに行こ」などとまるで興味を示しませんでした。

 その後、月日は流れ、青年井村達朗は再びこの本に出会います。それがラグビー漬け真っ盛りの大学二年生の時です。なぜか上京する際にダンボールにつめ、持って来ていたこの本が、本棚を整理した時に目に留まったのです。

「寝すぎてこれ以上寝れないし、マンガも一通り読んだし、遊ぶ相手もいないし、女にもモテないし、暇だから読んでみるか」そんな軽い気持ちで読み始めました。

 読み始めると止まらない、止まらない。こんなに長い小説を読んだ事のない私は最初のうちは全部読めるだろうかと不安に思う事もありましたが、気づけばガンガン読み進んでました。いまや大剣豪のイメージが強い宮本武蔵ですが、弱い頃もあり、剣の道に迷い、傷つき、敗れ、女のことが頭から離れず、苦悩が苦悩を呼び、それでも迷いを捨て剣の道に突き進んでいく日々がこの本にはつづられているのです。

「宮本武蔵も普通の人間だったんだ」本当につまんない感想ですが、青年井村達朗はそう思いました。

 そして幾多の苦難を乗り越え、ライバル佐々木小次郎との巌流島での戦いが最後に描かれています。戦いに赴く前に武蔵と、幼馴染であり武蔵が想いを寄せる人でもあるお通の掛け合いがこの物語で一番好きなシーンです。二人はずっと行き違って再会することができなかったのですが、戦いを前にしてようやく再会します。

 一言妻であると言ってくれというお通。口に出したらかえって味がないと言う武蔵。それでもお通は死んでしまったらもう二度と会えないからと泣き出してしまいます。

 これを受け武蔵はこう言います。

「武士の女房は、出陣にめめしゅうするものでない。笑うて、送ってくれい。――これ限りかも知れぬ良人(夫)の舟出とすれば、なおさらのことぞ」

 いやー、かっこよすぎる! そして泣ける! この本は本当に人生というものを考えさせてくれる名著です。 まさしく「これを読む、人生に涙する。」本です。ぜひおすすめしたい一冊だと、社会人井村達朗は思います。一読あれ!

(2011.07.01)

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